第2話 慌ただしい日々1/3

 それからの日々は、私も咲羅も大忙しだった。幸いなことに、来週の月曜日にアップされる動画は、28日のライブの舞台裏だから、新しく撮る必要なし。だけど、その次の週はRoseの曲の『踊ってみた』を投稿することになったから、それに向けて練習して、撮影して。

 振りは元々覚えてたし何度も踊っていたし、なんの問題もなく撮影できた。

 これと並行して、私はいろんな手続きや引っ越しの準備、学校の先生たちとの話し合いでてんやわんやだった。

 アイドルになるからには、今まで通り『普通科』じゃ厳しいでしょって曽田さんに言われて、「そりゃそうだわ」って早速先生に相談。4月から芸能コースに変わることになった。

 私を取り巻く状況は目まぐるしく変わっていった。


 対して咲羅は毎日曽田さんと打ち合わせ。夜遅くまで話し合うこともあるって駿ちゃんから聞いたけど、それでも咲羅は毎日学校に来た。

 私、もう疲れて朝から学校で爆睡してるんですけど。噂によると咲羅はちゃんと起きて授業を受けているらしい。てか、本人から聞いた。「なんで起きてられるの」って聞いたら、「んにゅ? 普通でしょ」と不思議な顔をされました。なんでだよ。昔、クソ忙しいのに学校来て、ぶっ倒れたことあったでしょうが。

 最近はそんなこともなくなったけどさ。体力がついて、成長したってことなのかな……いや、きっとなんかの感覚麻痺ってる。キャパどうなってんの? ちょっと一回頭の中見せてほしいわ。


 そんな中、11日(木)に『立ち続ける』ライブ映像が公式動画チャンネルにアップされた。

 私があの日確信した通り、彼女のアンコールステージは伝説になった。記憶だけじゃなく、記録にも残ったのだ。

 公開1カ月も経たないうちに再生回数1億回を突破。異例中の異例だよ。フィオもRoseも、フラワー・エンターテインメント所属のどのグループも達成できていない記録。

 マジで凄すぎる。

 因みに、2月27日にアップされたパフォーマンス動画も再生回数を伸ばし続け、知らぬ間に1000万回を突破していた。

 この結果を受けて、曽田さんはこの曲を音源化して発売するって言い出した。でも、咲羅のソロ曲じゃなくて『Sorelleソレッレ』――私たちの曲として。

 最初は咲羅のソロ名義『sAki』で出そうっていう話になってたらしい。だけど、

「私と樹里の曲だから、ソロで出すつもりはない」

 咲羅がハッキリと言った、って駿ちゃんから聞いた。まあ要するに、ごねたんですわ。

 結局曽田さんは「咲羅の曲なんだから好きにすればいい」と、意見を変えたそうだ。

 相変わらず甘いなあ……。


 あ、甘いといえば、彼はSorelle専属チームを作った。フィオもRoseもそんなのないのに。振り付け、作詞作曲、ボイトレ、衣装制作など、人数はそんなに多くないけど。みんな曽田さんの息のかかった人。つまり、咲羅のいいなり。

 こりゃ咲羅がどんなこと言っても受け入れられちゃうんだろうなあ、と知らされたときは苦笑してしまった。勿論『専属チーム』なんて作ってもらえるなんて思ってもみなかったから嬉しいんだけどさ。



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