第1話 推し爆誕6*華那*

華那かな


 一人寂しく居残り練習をしてたら、まさかの松本さんが登場! 嬉しすぎて挙動不審な行動をとっちゃったのは自覚してる。

 でもさ、仕方ないよね! だって憧れの、大好きな『松本樹里』が目の前にいるんだもん。

 最初フィオの研究生として事務所に入ったときは、「なんで研究生でもアイドルでもない人がレッスンを受けてるんだろう」って不思議に思ってた。ううん、正直、不満だった。

 私が苦労して手に入れた世界に、絶対的なセンター『岩本咲羅』の付き添いってだけで楽して入れているなんてずるい。

 そう思ってた。

 でも、毎日研究生以上に練習をして、岩本さんのバックダンサーとして動画に出ている姿を観ていたら、いつの間にか好きになってた。

 推しになってた。

 この事務所には、別に憧れている人なんていなかった。ただ、アイドルになりたい私にとって、ちょうどいい時期にフィオのオーディションがあったっていうだけ。

 それなのに、松も……樹里さんが推しになってからは、彼女が出ている動画を全て見返した。ちょっと見切れているだけの動画でも、一切音声が入っていない姿が映っているだけの動画でも。

 彼女の全てが知りたくて。ずっと見つめていた。

 樹里さんは私のことなんて全く意識してくれなかったけど。

 それでも追い続けた。

 この間のライブだって、樹里さんは岩本さんのバックダンサーとして出演していたけれど、正直岩本さんよりも輝いて見えた。綺麗なティアラを被った樹里さんは、本当にお姫様みたいで見蕩みとれてしまった。

 そして、一緒に『咲き誇れ』を踊れって滅茶苦茶嬉しかった! 私たちは研究生だから最後列で、樹里さんの目の端にすら映らなかったと思う。それでも、同じステージに立てたことが嬉しかった。


 この幸せを当分噛みしめて、いつか樹里さんに近づけたらいいな。って考えていたら、まさかまさか。ライブの翌日に会えるなんて。練習に付き合ってもらえるなんて! 握手してもらえるなんて!

 もうホント夢みたいな時間だった。いつまでも続けばいいのに、なんて考えちゃった。だから、途中カメラさんが入ってきたときは「邪魔だな」って思ったけど、初めてのツーショットを撮ってくれてるってことにすぐ気がついて、もうそっからは上機嫌。テンション最高潮。

 あと、カメラさんが入ってきたこと、私気づいてたよ、樹里さん。きっと貴女の目には、私は集中してて気づいてないように見えてたと思うけれど。

 私ね、演技力には自信があるんだあ。

 だからさ、ちゃんと演技できてたでしょ? 夢の時間を終わらせやがった岩本さんに対して。大人しい後輩を演じられてたでしょう?


 あーあ、樹里さんにとっての白馬の王子様は岩本さんなんだなあ。悔しいなあ。絶対敵いっこない……なんて思わないよ。

 私はまだまだ子どもだけどさ、1歳しか変わんないだからね。絶対追い越して、奪い去ってみせる。

 憧れを憧れのまま終わらせたりなんかしないんだから。

 って、連絡先交換するの忘れてた。最悪。


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