第30話 咲羅の本性3/5 *咲羅*

 フォメーションに口を出していることは、私と曽田だけの秘密。スタッフもメンバーも、それらは全て曽田が独断で決めてると思ってるから。

 プラス、Roseで下げられる代わりに、フィオではセンターを貫かせてもらった。センターじゃなきゃ意味がない。樹里の一番であり続ける為に。

 私はみんなの青春を、アイドル人生を犠牲にして歩み続ける。私の為に犠牲になってくれているメンバーに感謝の気持ちを忘れたことはない。

 彼女たちの華を枯らして、樹里の傍に居続けてるんだから。

 そして、ソロで今まで以上に自由にやらせてもらった。曽田が「咲羅は日本に留めておくには惜しい存在」と公言してくれているおかげで、海外アーティストとコラボさせてもらえて、ロックフェスにも出演できた。

 充実した毎日だった。


 ただ一つ、樹里がアイドルになってくれないことを除いては。


 だけど曽田に口添えしてもらって、咲羅をレッスンに参加させて、私のソロ曲のバックダンサーにもついてもらった。キャップを被っているからわかりにくいけど、ずっと観続けてくれているファンは気づいてくれた。

 私のソロ名義『sAki』に合わせて、樹里もフルネームではなくローマ字表記。名前載せるのはちょっと…って渋る彼女を押し切って概要欄にバックダンサーの名前として「JURI」と表記したことで、ファンに完全に認知された。

 何度も動画にわざと映り込ませて、樹里の存在を少しずつファンに広めていった。

 彼女の逃げ場をなくすために。

 だって私から離れようとしているのは勘づいていたから。バカな子。離してあげるわけなんてないのにね。

 私の家には、樹里には『物置部屋』と言って一度も入らせたことがない特別な部屋がある。

 壁一面に飾った樹里の写真。私だけが知る彼女の顔。

 写真を貼り付けだしたのは、自傷行為に走ったあの頃。本当に追い込まれてた。でもそれからずっと樹里が傍にいてくれるようになって、安定した。

 そのとき気がついた。私の一番の薬は、病院から処方されるものではなく、彼女の存在だってことに。同時に、彼女が傍にいることが当たり前じゃないことにも。

 アンチの言葉なんて、本当に気にしてない。樹里がいてくれればなにを言われても構わない。一番怖いのは、樹里が私の元を去ってしまうこと。だから演技だってしたし、樹里の前だけで泣いたりもした。彼女を引き留めるために必死だった。

 そんな中、兼任解除を知らされたときはどちらにいるべきか迷った。でも、正直言ってフィオには華がない。瑠実さんはまとめる力はあるけど。茜は華があるけど……。堕ちるとこまで堕ちちゃってるからなあ。


 私は知ってた。

 茜が毎晩ホストクラブに通っていること。茜が週刊誌にデマを流していること。全部曽田が教えてくれた。中絶した過去も何故か知っていった。

 あー怖い怖い。多分メンバーのプライベート、ほぼ把握してんだろうね。

 まっ、そんなことはおいといて。Roseが花園だとしたら、私と茜がいないフィオなんて、雑草だらけの畑みたいなもんなのよ。

 だったら私が選ぶ道はただ一つ。Roseに残る。事あるごとにお世話になった瑠実さんには申し訳ないけど、沈んでいくだけの船に興味はない。

 それからも樹里が離れないように、適度に演技しながら、一緒にレッスンを受けてリハーサルに代役として参加させた。もどかしいけれど、私にはそうするしか方法がなかった。

 だけど、状況が一変する出来事が起こった。


 白井翔が自殺を図った。


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