第30話 咲羅の本性2/5 *咲羅*

「それにさあ」

 考え続ける私に、曽田は口角を上げて

「君って結構腹黒いでしょ?」

 ズバリと言い当てられてしまって言葉が出てこない。

 誰にもバレてないはずなのに、どうして。

「あの『出たくない』ってわめいてたの、演技でしょ」

 思わずため息をつく。最悪。この人にはお見通しってわけね。

 本当に苦しくなかったわけじゃない。でも私はしがみつかなきゃいけなかった。可哀想と思われる為の演技。樹里にずっと傍にていてもらうために。

 手放せるわけがなかった。

 結局私は曽田の提案をのんだ。後ろからみんなのパフォーマンスを観てみるのもいいかなって。

 どうせなら最後列にして、って言ったのは私。あれはあれで面白かった。みんな未熟で華がないのがよくわかったから。

 あ、琴美さんは別ね。あの人も私と同じように、アイドルになるために生まれてきた人。最初は顔の美しさに似合わず雰囲気が地味で埋もれてたけど、実力と才能でフロントにのし上がってきた。


 翔のセンターが発表されたときにわざと泣き崩れて、一応「重圧から解放されたのが嬉しくて」って動画が回っていたから話した。結局そこは曽田の判断でカットされて動画はアップされた。彼曰く「その方が君のファンは怒るだろ」って。たしかにその通りでした。大炎上して、動画の再生回数は伸びに伸びた。

 今まで「他メンがバックダンサーみたい」って私が叩かれてきたけど、「咲羅が可哀想」だってさ。面白いようにみんな手のひら返し。最高かよ。

 念押しでジャルにてセンターが発表されたとき涙ぐんどいた。思い通り、これも再生回数伸びてた。その後のインタビューで「気持ちを切り替えて、翔を支えていこうと思います」。これは我ながらいいコメントだったと思う。「頑張れ咲羅たん」「絶対センターに戻れるからね!」たくさんの応援コメントもらえたし。

 私の手のひらで踊らされてるみんなが可笑しくって仕方なかった。


 あと、彼の提案を受け入れる代わりに、私はこっそり運営に口を挟ませてもらうようになった。メンバーの選抜・立ち位置にだって関わってきた。私を崇めてくれるメンバーは前列に。どうでもいいメンバーは後列か選抜から外した。

 フィオ10枚目のシングルで茜だけを外したのも私。全員選抜でも良かったんだけど、私に対する態度が悪い茜なんていらなかったし。彼女だけがいないステージでのパフォーマンスは、とても気持ちが良かった。

 あれで心折れて卒業するかなーと思っていたら、なんとまあ残っちゃった。辞めてくれたら良かったのに。そして、スケジュールの調整がつかなくて私が断ったミュージカルのヒロイン役のオーディションに、茜が参加すした。

 私にはオファーが来たのに、彼女は何人も何百人もいるオーディションから。

 格が違うのよ。アイドル界に足を踏み入れた時は目標にしてたけれど、もうとっくに追い越したし。私の方はまだまだ賞味期限があるけれど、あんたはとっくの昔に期限切れってことに、気がつかないなんてバカだね。

 受かったって聞いたけど、別に興味無い。勝手にすればいい。注目度が高まれば高まるほど週刊誌にネタを売られる。いくら期限切れでも、アイドルの汚点はいいネタになる。

 そういう世界ってこと、あの人はわかってない。何年アイドルやってんだか……。大人しくしとけばいいのにね。往生際が悪いったらありゃしない。

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