第30話 咲羅の本性1/5 *咲羅*

*咲羅*


 ライブの後、楽屋近くで静かにメンバーを眺めていた曽田に声をかけた。

「どうだった? 私のパフォーマンス」

 私の問いに口角を上げて、

「本当の君を魅せてもらったよ。MCには笑っちゃいそうになったけどね」

 やっぱり君の演技は上手い。もっとドラマの仕事入れるよ。

 それは良かった。まあ演技だってバレちゃったのは残念……ではないか。この人は私の本性を知ってるんだから。

 というか、

「ドラマ関連はほどほどでいいから。私別に、女優に今は興味ないし。メインはアイドルだから」

 それだけ告げて、さっさと樹里がいる楽屋に戻る。あんまり長話してると『依怙贔屓えこひいき』ってうるさいし。別に気にしてないんだけどさ、蚊みたいに周りをブンブンされると鬱陶しいでしょ?


 曽田と手を組むようになったのは、Roseに2期生が加入することになった2020年。6枚目のシングル『消された存在』のレコーディングをする前に、私だけ曽田に呼び出された。

 歌割を先に見せられるのかなと思ていた私に、

「君には一旦センターから外れてもらう」

 衝撃、の一言じゃ済まなかった。

「なにそれ? 今まで散々私を利用してきたくせに、今更――」

 狭い会議室で狂ったように叫ぶ私に、「君に経験を積ませたい」「それに、アンチを抑えるいいタイミングだ」って耳障りのいい言葉ばかりを吐く曽田が憎らしくって、思わず唾を吐きそうになった。

 だけど、

「約束する。絶対的なセンターとして君を返り咲かせる」

「……どういうこと」

 落ち着きを取り戻した私に、曽田は笑顔で語りかける。

「2期生にね、『白井翔』っていう子がいるんだ」

 タブレットを取り出して、彼女のオーディションの映像を見せられた。すぐに彼女の初々しさの中に秘めた美しさに目を奪われて、「この子は売れる」って感じた。

 私の反応に満足げに頷きながら、

「この子にセンターを任せようと思ってる」

「加入していきなりセンターですか」

「そうだよ」

 画面の中で踊り続ける白井翔を見ながら、

「潰れますよ、絶対」

 1期生を差しおいてセンターになって、いろんなものを背負わされて。勝手に昔の自分を重ねてしまう。

「それならそれでいいんだよ」

「はい?」

 なに言ってんの。多分顔に気持ちがそっくりそのまま出てたんだと思う。曽田は、はっはっは、と笑いながら

「これは実験だよ。咲羅以外のメンバーがセンターになったらどうなるか、っていうね。その適任者がこの子なんだよ。1期生じゃ面白くないしさ」

 それに、と机に肘をつき手を組んで

「僕もね、潰れると思ってるし、それでいいと思ってる。君には、君をまるで神様や天使のように崇めるファンが多い。メンバーもしかり。だから『絶対的センター・岩本咲羅』を押しのけてセンターになれば、この子は各方面から攻撃されるだろうね。あと、さっきも言った通り、最近君のアンチがデカイ口を叩いてるんだよ。それを抑えたいんだ」

「うわ、最低だわ」

「でも、決して悪い話じゃないと思うんだけどね。どうかな」

 あ、因みにこの話は他言無用で。

「そんなこと言われなくてもわかってるし」


 口ではののしりながらも、心の中では真逆のことを思っていた。曽田って最高。たしかに私を崇めてくれているファンやメンバーは一定数いるし、私が後列に下がれば彼ら、彼女たちの怒りを買うのは火を見るよりも明らか。それに、琴美さんを見ていて、後列から這い上がった方が人気がでるし応援したくなることはわかっていた。

 ついでみたいに言われたけど、彼の言う通り最近アンチがうるさい。「炎上してるなあ」って特になにも思わなかったけれど、このままじゃ増えていくばっかり。

 ここら辺で鎮火させといた方が後々楽か……。

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