第29話 ライブ後にする話じゃないよね?

「今日久しぶりにお客さんの前に立って、『やっぱりセンターに立ち続けたい』って思った。もう後列は嫌」

「咲羅……」

 帰りの車内でじっと私を見つめる彼女の目は、会議室で曽田プロデューサーと対峙したときの目と同じだった。

「まっ、これからは私が卒業するまでセンターなんだけど」

 にゃはは、と笑ったけど一瞬で笑みを消して、

「それに、絶対に曽田さんを許さない。まだアイドルを続ける気があった翔に甘い言葉を言ったことも、アカ姉を潰したことも。あの人が全ての元凶だよ」

「潰した?」

 証拠はこっちが握ってるんだから。彼女がそう言うと、駿ちゃんが運転しながら片手でなにかを差し出してきた。

「これって……」

 曽田さんととスーツ姿の男性が高級そうな店に入って行く写真だった。


「この人が、アカ姉が通っていたホスクラのオーナー」

「仲いいらしいよ」

 駿ちゃんが少しおどけたように言う。

「もっと情報を集めてもらえるよう、拓哉に依頼してるから。まあ気長に待ってて」

「急いては事を仕損じる、ですか」

「にゃっす」

 笑っているけれど、目は全く笑っていないのがルームミラー越しにわかる。

「それまでは、普通に曽田さんに接すること。いいね?」

 私たち、特に咲羅に言い聞かせるように駿ちゃんが言った。

「はい」

 素直に頷くけど、彼女は外の景色を眺めたまま。

「さくちゃあ~ん?」

 いつまでも返事がないので頬をツンツンしてみれば、頬を膨らませて

「にゃっす」

「それで良ぉ~し」

 そのまま肩に頭を乗せて寝る体制に入られましたけど、絶対首痛いと思うんですけど……。

 というか、咲羅、本当は曽田さんのこと嫌いだったのか。てっきり裏で結託してるから、仲がいいと思っていたけど。それとも、これも演技なのかな。だって、翔ちゃんのこともアカ姉さんのことも、咲羅が潰してってお願いしたんでしょ?

 それぐらいわかってるよ。

  あとさ、大森と曽田さんが繋がっていると証明できたところで、駿ちゃんはどうするつもりなんだろう。私も四月一日わたぬきさんに調査をお願いしている身ではあるんだけど。

 告発でもするんだろうか。だけど、それでもアカ姉さんは戻ってこれないし、翔ちゃんもアイドルには戻ってこないと思う。正直誰も得しないんだよね。曽田さんが黒幕だってわかったところで。


 フラワー・エンターテインメントは、曽田さんなしではやっていけないことぐらいわかってる。彼のカリスマ的なプロデュースによって成り立ってるんだから。

 それなら、放っておいたほうがいいんじゃないか。

 でも、咲羅が曽田さんと縁を切りたがっているのなら話は別多分、今日のライブで曽田さんのプロデュースがなくなってもやっていけるって自信をつけたんだろうし。ちょっとこれは様子見だな……。

 きっと咲羅が我が儘で横柄で傲慢な性格になったのは、曽田さんの影響が大きいんでしょうね。けれど、私が甘やかし過ぎたのも理由の一つなんだろうなあ。ちょっと反省。

 まあ、今日は頑張ったし。いっか。

 久しぶりにステージに立った余韻がカラダに残っているのか、ご機嫌な駿ちゃんの運転で私たちは夜の街を駆け抜けた。

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