第28話 アンコール:咲き誇れ1/2
全員が立ち位置についたことを確認して、咲羅が口を開く。
「それでは聴いてください『咲き誇れ』」
イントロが流れだし、私たちは舞始める。1番はジャル選抜メンバーがメインステージで、選抜外のメンバーは階段状のセットで落ちないように気を付けながら踊る。
もう緊張はしてない。笑顔でちゃんと踊れてる。泣きながら歌う翔ちゃんを見て泣きそうだけど。
前列と後列がすれ違うタイミングで、咲羅と目が合った。あぁ、ソロの咲羅も好きだけど、やっぱりグループのセンターにいる彼女も好きだ。
スカートとハーフアップにした長い髪がふわりと舞う。その姿をしっかりと目に焼き付けた。だって、彼女は年内でRoseを卒業してしまうから。
私たちの声が重なり合い、ファンの声援もよく聞こえる。
この中には、咲羅がセンターなことに不満をもっている人もいると思う。でも、今だけはそんなことは関係なかった。こんなにもファンとメンバーたちが一体になったライブがあっただろうか。
曲がラストに向かっていくほどに、ダンスが揃っていく。
これが『岩本咲羅』だ。
これが『Giardino Floreale』だ。
文句なんて言わせない。
そう思いながら踊っていると、みんな自分の推しを観ながらも、私を観てくれている人がいることに気づいた。
私が選んだ選択は間違ってなかった。アイドルになって良かった。翔ちゃんの最後のステージに一緒に立てて良かった。心の奥底から、そう思う。
2番は咲羅と翔が先頭になってフロントの6人だけが花道を歩き、センターステージで踊る。私たちは、彼女たちに続いて互い違いに並んで花道で踊った。
咲羅ほど上手く髪の毛をさばけないけれど、毎日練習したおかげで、ちょっとは上手くなった。私も咲羅みたいに華を咲かせられるかな。
違う。咲かせないといけないんだ。私は彼女とアイドル界のテッペンをとるんだから。
間奏の間に、私たちはメインステージへと戻った。
そして、ラスサビ前の、この曲唯一のソロパート。本来は翔ちゃんだけが歌う予定だったけど、咲羅と分けて歌うことになっていた。2人だけスポットライトが当たり、咲羅が優しく翔の手を取りながら歌う。
問題はその直後の翔ちゃんのパートで起こった。頑張って歌おうとするけど、涙を堪えているせいで声が出ないみたい。そしたら、ファンが歌い出して、その声に後押しされるように、翔ちゃんもなんとか歌うことができた。
大丈夫だよ、翔ちゃん。あなたは世界に愛されてる。
ラスサビが始まった瞬間、メインステージ全体が光で包まれ、バーンと天井に向かって桜の花びらの形をした紙吹雪が放たれた。
ヒラヒラと舞う花びらの中で、気づけば咲羅も翔ちゃんも滅茶苦茶泣いていた。メンバーの中にも泣いている人がいるから、つられてファンも号泣してる。そういう私も堪えきれずに泣いちゃったんですけど。
選抜メンバーも選抜外メンバーも力を使い切って、歌は掠れているし、ダンスにも疲れが見える。それでも、奥底から力を絞り出してパフォーマンスしてる。それに応えるように、ファンは喉から血が出そうなほど叫んでいる。
これが翔ちゃんにとって最後のステージだから。短い春だったけど、アイドルになってくれてありがとう。
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