第26話 アンコール:翔MC2
「ですが、芸能界は引退しません。中途半端は嫌って言っておきながら、みなさんからしたら『中途半端じゃん』って思われるかもしれませんが、青春を賭けて闘ったこの場所を離れて、別の場所で勝負しようと思います。まだどの道に進めばいいのかわかりませんが、命を大切に生きていきながらゆっくり考えていきます」
よくぞ言い切った。もうアンチに惑わされず、翔ちゃんは翔ちゃんの道を生きて。
会場からは、彼女を応援するように拍手が巻き起こった。そして、モニターを観たファンが泣きながら笑い出す。
不思議に思った翔ちゃんが目に涙を浮かべたまま後ろを向くと、咲羅が翔ちゃんの後ろに立っていて、私と琴美さんに支えられながら号泣してた。
私以上に咲羅が泣くなんて想定外なんですけど。でも、きっと心を病むほどにアイドルに命を賭けた咲羅だからこそ、翔ちゃんの言葉は胸に響いたんだと思う。いくら腹黒くっても、彼女はアイドルである前に人間だから。これは演技じゃない。
たまには素のままの咲羅をファンに見せたっていいでしょ。
「めっちゃ泣いてるやん」
自分以上に泣く咲羅を見て冷静になったのか、翔ちゃんが関西弁でツッコむ。
「泣いてないしいいいい」
「いやいやいやいや」
「泣いてないもん……ううううう」
「泣いてるって」
「泣いてるやん」
頑なに泣いていることを認めない彼女に、メンバーからも総ツッコミを受ける。
こんな姿珍しいなあ。咲羅の頭をポンポンと撫でると、漸く泣き止んだ。
さっきまでしんみりとお通夜みたいな空気だった会場が、今のくだりで和んだ気がする。
あれ、もしかしてやっぱり演技だった……? 復帰舞台がしんみりとしたまま終わるなんて、咲羅が許せるはずない。いや、流石にそれはないと思いたい。
モヤモヤと考えていると、翔ちゃんが再び前を向いて
「本当は今日出るつもりはありませんでした。でも、咲羅さんが『咲き誇れ』をWセンターにしようって、『生き様見せつけてやろう』って言ってくれたおかげで、今日この場に立とうと思えました。だから、最後までよろしくお願いします」
もう一度頭を下げて、翔ちゃんは咲羅の隣に並ぶ。咲羅と翔ちゃんの、最初で最後のWセンター。
私も他のメンバーと一緒に立ち位置へと移動する。ごちゃごちゃ考えるてる暇はない。最後のパフォーマンスが始まる。
集中しないと。
気を引き締めて、マイクを握った。
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