第26話 アンコール:翔MC1/2

 着替えながら、ステージ裏のモニターで翔ちゃんの様子を見守る。

 フィオもRoseも幸いなことにまだ誰も卒業していない。だから、彼女が最初の卒業メンバーになる。どう受け止めればいいのか、きっとメンバーもファンも複雑な心境を抱いてるんだろう。

 マイクを持って会場を見渡した翔ちゃんは、

「この度は、ご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 頭を下げた。そんな彼女に、会場からは「大丈夫だよ!」「翔ちゃーん」「生きててくれてありがとう!」と温かい声が飛び交う。

 本当に、生きていてくれて良かった。もし死んでしまっていたら、もう二度と会えないから。きっと、ファンの中には後を追う人だっていただろうし。

 ファンからの声援に、頭をさげたまま翔ちゃんは口を押えた。そのまま無言のまま喋ることができない。でも、マイクに彼女の小さく鼻をすする音が入っちゃってる。

 話し出したら、言葉と一緒に涙が溢れちゃいそうなんだよね。

「すみません……」

 漸く顔を上げた彼女の目元は赤く染まって、鼻も少し赤くなっていた。そんな姿を見て、ファンが泣かないわけがない。会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえる。

 涙を必死で堪える翔ちゃんに琴美さんが近づいて、そっと腰に手を添える。「大丈夫だよ」そう言っているような気がした。


 翔ちゃんはマイクを握り直し、

「私がRose vampに加入して、センターを任せていただきました。それはとても光栄なことであったと同時に、凄くプレッシャーでした。最近は中々振りも歌も覚えられなくなって、パフォーマンス中のミスも増えて。そんな自分が不甲斐なくて。でも、上手く弱音を吐けないし誰かの負担になるかと思うと相談もできなくて。環境の変化についていけず、勝手に自分を追い込んだ結果が、自殺未遂でした」

 画面越しでも、マイクを持つ手が震えているのがわかる。

 着替え終わった私たちはステージへと向かう。

 頑張れ翔ちゃん。自分でこの場所に立つことを決めたんだから、最後まで話さなきゃダメだよ。

「本当に馬鹿なことをしたと思います。だけど、あのときは逃げるには死ぬしかないって思っていました。こんな状態のままアイドル活動を続けることは、正直しんどいです。事務所の方々からは、1年ぐらい休んだらどうだ、と仰っていただけましたが、中途半端は嫌です」

 そこで言葉を切って、会場を見渡した。泣いているファン、静かに話を聞いているファン。

 みんな、その言葉の先を知っている。事務所から発表があったから。でも、

「わたくし白井翔は、Rose vampを卒業します」

 本人から聞くまでは信じられない。信じない。そういうファンは一定数いるから、会場に悲鳴にも似たざわめきが広がる。

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