第25話 アンコール:咲羅MC2

「最後に3つ目は」

 私の方をチラリと見て、

「多分みなさん動画でちょいちょい見たことあると思うんですけど」

 マイクを私てきた。え? なに、自己紹介しろってこと?

 そう小声で聞くと、彼女は小さく頷いた。

 てっきり咲羅だけが喋ると思っていたから、自分で自己紹介をするなんて想定外で。あらかじめ言っといてよお。

 なんか急に緊張してきた。深呼吸をして、口を開く。

「松本樹里です、さくちゃ……咲羅さんと同い年で幼馴染です」

「いつも通りさくちゃんって呼んでよ」

 マイクを彼女に渡すと、そう言って笑った。

 すると、「咲羅たんが笑ってる」と会場がざわつく。というか、泣いている人もいる。パフォーマンス中もそうだったけど、ファンのみんなは咲羅の笑顔を生で見るの久しぶりだもんね。写真とかでは笑顔でギャルピースしてたけど。

 最近のライブでも歌番組でも、彼女の満面の笑みを観ることなんてなかったから。ビックリしちゃうのも当然。

「それで発表っていうのは、彼女と『Sorelleソレッレ』というユニットを組ませてもらいます。イタリア語で『姉妹』という意味です」

 ファンたちは「マジか」と戸惑いながらも、拍手をしてくれた。うん、取り敢えず受け入れてもらえたようで良かった。

 ユニット名は2人で話し合って決めた。咲羅は『恋人』『愛する人』とかそういう名前をつけたかったみたいだけど、あからさま過ぎるからやめようって私が大反対した。珍しく喧嘩しました。大喧嘩でした。でも、結局は私の案を受け入れてくれた。

 だって、姉妹みたいに支え合って生きてきたんだから。絶対この方がいいと思うんだよ。駿ちゃんも大賛成してくれたし。


「私と樹里は生まれたときから一緒にいて、彼女のおかげで私は戻ってくることができました。私が今までやってこられたのも、樹里のおかげです。重圧に耐え切れなくなりそうでも、傍で優しく支えてくれました。彼女のパフォーマンスはさっき見てもらった通り、フィオやRoseのメンバーに引けをとりません。2人でなら新しい世界をみなさんに見せられると確信しています。それに、歌もめっちゃ上手いです」

「え、ハードル上げないでよ」

 思わず出たおっきな声がマイクに入ってしまい、会場に響いた。

「でも本当じゃんん」

「いやいやいや、でもさあ――」

「あ、『咲き誇れ』ではアカ姉さんの代理でステージに立ってもらいますんで」

 手を繋いだままわちゃわちゃと揉める私たちを観て、あちこちから笑い声が聞こえた。

 会場の冷めた空気が温まっていくのを感じる。ああ、みんな結局は咲羅のこと大好きなんだな。てか、私がファンの反応を気にし過ぎてどうする。

 彼女はファンに自分が受け入れられなくたって気にしない。受け入れられるまでゴリ押ししていくだけだ。私も見習おう。スルースキル、耐久性、大事大事。

 咲羅は笑顔のまま、

「これからはRose vampとして活動しながら、樹里や廉さんとの活動、ソロも頑張っていきますので、引き続き応援のほどよろしくお願いします」

 2人一緒に頭を下げる。

 パラパラとまばらだった拍手がさざ波のように会場全体に広がり、大きな拍手が巻き起こった。

 ほら、受け入れさせた。滲み出ちゃってのよ、威圧感というか女王の風格が。

 やっぱり凄いわ。


 頭を上げた咲羅は、嬉しそうに

「ありがとうございます」

 とファンに感謝を述べた後

「次の曲が最後なんですが、その前に」

 翔の方をチラりと見て、頷き合った。

「そしてもう1つ、白井翔のこと、気にされている方が沢山いらっしゃると思います。なので、本人の希望もあり、今日この場をお借りして話をしてもらおうと思います」

 ずっと繋いでいた手を離し、私たちはステージ裏へと向かう。

 これからは翔ちゃんのMCだ。その間に着替えなきゃいけないんだけど、泣かずに翔ちゃんの話を聞ける自信ないなあ……。

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