第25話 アンコール:咲羅MC1/2
「みなさん、お久しぶりです。心配と応援のコメント、ありがとうございました。しっかりと届いています」
頭を下げる咲羅につられて、私も頭を下げた。いや、私が下げる必要はないんだけどさ。
「今日は3つ発表があります。1つ目は、今まで芸能活動をお休みしていましたが、今日から再開します」
会場から拍手と共に、また「お帰り!」「待ってたよ!」という言葉があちこちから聞こえてくる。
休んでいた期間は約1カ月だけ。それでも、ファンにとっは長い時間に感じたんだろうなあ。私も一緒に練習してなかったら、「いつ戻ってきてくれるんだろう」って不安になってたと思う。
「ありがとうございます。そして2つ目は、先日兼任解除の発表がありました。私は11歳でFioReに加入してから約5年間、ずっとセンターを任せてもらいました。ですが、今日をもってFioReを卒業し、Rose vampに残ります」
メンバーにも知らせていなかったから、後ろから「嘘でしょ?」と戸惑う声が聞こえる。すすり泣く声も聞こえる。
咲羅はもうフィオを見限っているけれど、メンバーはなんだかんだ言って彼女の存在を大切に想っていたんだなあ。勿論、咲羅がセンターに居続ける限り自分はセンターになれない、って諦めて活動していた子は沢山いる。それでも、5年もセンターとして矢面に立って、重圧に耐え続けたんだ。尊敬されていないわけがない。
「歩んできた道は決して平たんではなく、険しい道でした。私がセンターにいることを応援してくださるファンもいれば、よく思わない方も勿論いらっしゃいました。それでも……アカ姉を含めて、この27人でやってこれたことを誇りに思います」
ちゃんと『アカ姉さん』の名前を入れたのは、流石だなあ。メンバー想いだってちゃんと演じてる。
「ただ、アカ姉がしたことは、されることではありません。私も、私のファンのみんなも傷ついた。でも、私はアカ姉さんを許します。だから、もうアカ姉さんを叩くのは終わりにしてください。これから先、アカ姉は研究生として活動していきます。応援してくださいとは言えませんが、見守ってあげてください」
会場を見回しながら言って、咲羅は深呼吸をした。
「そしてRoseについてですが……曽田さんからまたセンターに戻るように言われました」
少し苦しそうに、彼女は言った。ファンの反応は様々で、受け入れているファンもいれば、「またか」みたいに眉をひそめている人もいる。
あのさ、ステージからみんなの表情って結構見えんのよ。今微妙な顔をしたヤツの顔、絶対覚えておくから。
きっとRoseのメンバーも似たような反応なんだろうな。センターを目指してる子にとっては、咲羅は邪魔者でしかないもんね。
一呼吸おいて、咲羅は再び口を開く。
「私がセンターに立ち続けることについて、いろんな意見があると思います。でも、11歳からアイドルをやらせてもらって、漸く覚悟が決まりました。これからは私がRoseを矢面に立って守り抜きます。どんな批判も受けて立ちます。それは、こんな私を支えてくれる人が傍にいて、応援してくれる人が沢山いると気づいたから。アイドル界の頂点に立つために、大切な人を笑顔にするために、ファンのみんなに素敵な世界を見せるために頑張っていきます」
よろしくお願いします。頭を下げた彼女に、会場からはまばらな拍手が起こる。ちゃんと拍手してよ。
頭を上げた彼女の姿を見て、ふと今までのさくらが頭の中を駆け巡る。11歳でデビューした幼い咲羅、心を病んでしまった咲羅、私の前でしか泣かない咲羅、カメラの前で演技をするようになった咲羅。自分の足を引っ張るメンバーを許せなくなった咲羅、無理に大人らしさを演出していた咲羅。強くならざるを得なかった咲羅。
ここまでくるのに、どんだけ辛い思いをしたと思ってんだよ。ファンはちゃんと観てきたはずだ、彼女が歩んできた険しい道を。
腹くくってこの場に立ってんだからさ、表向きだけでも応援してよ。
ああ、もう! イライラする。感情が顔に出ないように堪えながら、咲羅の手をギュッと握る。
そしたら握り返してくれて、ファンの反応なんてどうでもいいように話を続ける。
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