第24話 アンコール:ソロ1/4

 最後の曲が終わり、メンバーが全員がステージ上からいなくなったと同時に、アンコールを求める歓声が聴こえてくる。

 いよいよ出番。

 咲羅は密着カメラに手を振って後、私たちとは別れて既に立ち位置についている。

 歓声に応えるように会場全体の照明が最小限まで落とされると、『立ち続ける』のイントロが流れ出し、会場がざわつく。

 だけどそれは一瞬で、すぐに「咲羅! 咲羅!」と彼女の登場を求める雄叫びにも似た声が会場に響き渡る。

 流石オタクたち。昨日アップされた動画をちゃんと観てくれていたんだ。感謝の気持ちを覚えつつ、気持ちを引き締める。


 メインステージの中央にスポットライトが当たると、会場が大歓声で揺れた。

 現れたのは、玉座に座ってティアラを被り、真っ白なドレスに身を包まれ、片肘をついた咲羅。

 みんなの興奮が肌をピリピリと刺激した。私たちもメインステージの、中央のセットが左右に開いたところから1列に登場する。目立たないように、静かに。

 そして、咲羅は立ち上がり、

「I'm the queen」

 とささやくように言って、ティアラを後ろへ投げた。

 再び会場が歓声に包まれる。巻き起こる咲羅コールの中で、男性陣が玉座の後ろから姿を現して咲羅の姿を覆い隠す。

 私と駿ちゃんで咲羅の早着替えを手伝い、cinqの1人がドレスと玉座、ティアラをステージ裏へと急いで運ぶ。

「Let's go」

 咲羅の言葉を合図に布がステージ下へと投げられ、ステージ全体の照明が点く。

 先ほどとは全く違うパンクロックスタイルの咲羅に、会場のボルテージが急上昇した。

 15cmのピンヒールを履いて、仁王立ちする咲羅。女王様の降臨。一瞬にして会場が彼女の色で染まったような気がした。

 これからなにが起こるのか。なにを魅せてくれるのか。みんな、咲羅のパフォーマンスを楽しみにしてる。

 全員が立ち位置につき、咲羅が一歩前に出て1番を歌い出した。

 さあ、私たちのショーの始まりだ。


 彼女がターンをキメれば会場が沸き、美しく髪をなびかせても口角を少し上げただけでも、なにをしても会場が沸いた。

 間違いなく、この場の支配者は咲羅だった。

 1番を歌い終わり、間奏に入って彼女が一瞬振り返って微笑んだかと思うと、私の手を引いてセンターステージへと走り出した。

 はい!? 待って待って、メインステージだけでパフォーマンスする予定でしょうが。私も慌てているけど、ステージ下のスタッフさんたちも慌てているのが見えた。ごめんなさお、ちょっと笑える。

 1番を全力で歌った後、花道をあのヒールで走るのはエグいて。体力バカなのか……うん、体力バカなんだろうな。

 咲羅に手を引かれるまま走りながら、後ろを振り返ってみると、みんな苦笑しながらもファンのみんなを煽りながら後に続いて走ってくれている。

 流石は元アイドル&現役アイドル。


 2番に入り、センターステージで息を切らさずに踊る咲羅の姿は、日頃の努力のたまものだ。

 後ろで踊っていると、ファンのみんなが彼女のパフォーマンスに魅了されているのがよくわかる。咲羅担が沸いてたり泣いていたりするのは勿論、明らかに他担の人も泣いてるし、翔ちゃん担も号泣していた。

 この曲が彼女に向けて作られた曲だって伝わってよかった。咲羅の真意はそうじゃないんだけどさ。

 この曲は、咲羅が新しいステップへと駆け上がるための踏み台にすぎな。そんなこと言えるわけないからさ、お墓まで持っていってあげるよ。

 なんて。

 高揚しながらも意外と冷静に見れてるんだな、私。

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