第23話 本番間近2
「ちょっ! 今手汗が凄くって――」
「いいの」
手汗まみれの手なんて気持ち悪いはずなのに、咲羅が手を握ってくれる。
「私ね、考えてたことがあるの」
彼女はそう前置きをして、
「今言うことじゃないけど、樹里のお父さんのこと。多分、どっかで生きてるんでしょ? だったら、テレビとか新聞とかで、私たちのことを目にするかもしれない」
借金を残して蒸発した最低な父親。私とお母さんを苦しめた極悪人。そんな人のことを、どうして今言うんだろう。
「だからさ、見返してやろうよ。生き様見せつけてやろうよ。『あんたが捨てた娘はこんな立派に育ちました』って。後悔させよう、樹里と樹里ママを苦しめたこと」
「さくちゃん……」
泣いちゃダメだ。メイクが崩れる。
「そんで、お母さんには感謝の気持ちを伝えていこうよ」
涙を堪えるために慌てて上を向く。でも、咲羅にちゃんと伝えなきゃ。
「ありがとう。うん、どっかで生きているはずの父親に見せつけてやるし、『好きなことをやりなさい』って言ってくれたお母さんには、感謝を伝えたい」
手を握り返すと、咲羅は「にゃははは」と笑ってくれた。今までの私の人生は影ばっかりで咲羅が唯一の光だったけれど、これからは咲羅が私を包み込んでくれる。だから私も光になれるはず。
ううん、はず、じゃなくてなるんだ。光になって、咲羅と一緒にアイドル界のテッペンをとるんだから。
そんな私たちの様子を、密着カメラが静かに収めていた。
ステージではフィオとRoseのメンバーが全員出て、ラストソングを迎えていた。
一方ステージ裏では、仕事を終えたcinq5人が合流して、全員で円陣を組む。渋滞とか事故に巻き込まれて間に合わなかったらどうしよう、って思ってたけど良かった。一安心。
「ではでは、今回の主役の咲羅から一言!」
真剣な表情だけど、口角を少し上げた駿ちゃんが咲羅に言った。
「うん。みんな、今日まで私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。そして、無事に本番が迎えられて良かったと思う。でも油断大敵! 気を引き締めていきましょう! みんな、準備はいいね?」
彼女の言葉に、全員が頷く。みんな目がギラギラしていて、興奮しているのがよく伝わって来る。きっと私も同じ目をしてるんだろうな。
「それじゃあ、魅せてやりましょう! やるぞー!」
「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」
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