第23話 本番間近1/2

 16時半、ライブが始まった。沢山のファンの歓声が楽屋まで聞こえてくる。開演早々盛り上がっていてなにより。

 1曲目が聴こえてきた時点で、私は楽屋に置かれた小さなモニターを点け、ライブを見守る。咲羅はソファに寝っ転がってスマホを弄ってる。ホントに興味ないのな、自分が出てないステージ。

 私だってそこまで興味ないけどさ、Roseのパフォーマンスは観たいから。琴美さんはやっぱり華やかだから。

 彼女たちのパフォーマンスを観ているうちに、段々と緊張が高まって来る。あんだけ練習したけど、初めてお客さん前に立つのが武道館っていうのは……緊張するなっていう方が無理な話。心臓がバクバクして飛び出そう。

 ダメだ。一旦観るのやめて、アンコールの流れを再確認しよう。まずは咲羅のソロ曲で、歌い終わったらジャル選抜メンバーを先頭にフィオ・Roseメンバー全員が登場して、咲羅のMC。その後に翔ちゃんのMC。その間に私たちは着替えて、『咲き誇れ』で終わり……と。

 私は咲羅がなにを話すのか知らないし、勿論翔ちゃんがなにを話すのかもしらない。多分卒業について自分の口から話すんだろうけど。泣かない自信なんてないよ。だって、これは翔ちゃんが描いていた卒業の形じゃない。卒業なんて、本当はもっともっと先で、アイドル華々しく活動していくはずだったんだから。

 あーヤバイ、考えただけで視界が滲む。やめよう。こんな悲しいことを考えるのは。


 ライブが終盤にさしかかったので、私たちは衣装に着替え始める。髪の毛も整えてもらって、メイクもバッチリ。

 今日のために作ってあったイヤモニと、ヘッドセットを身につける。

 まるで別人みたいだ。

「今日からは、これが『JURI』だよ」

 鏡をじっと見つめていると、咲羅が後ろから両肩に手を置いて

「自信もって。2人なら無敵だよ」

「そう……だね」

 鏡越しでも咲羅はいつも通りに、ううん。アイドル・岩本咲羅は眩しいくらいに輝きを放ってる。シンプルな白いドレスだけど、本当にお姫様みたい。

「綺麗だね」

「似合うっしょ」

 その場で一回転する彼女に思わず見蕩れてしまう。

 私はどう足掻あがいたって彼女の美しさには敵わないけれど、私は私なりに頑張っていこう。

 そう決心し、咲羅と共に楽屋を出てステージ裏へと向かう。後ろを密着カメラがついてくる。


 足取りは決して軽くはない。だって、ライブが終わりへと近づくにつれてファンの歓声も、メンバーの熱量も増しているのが裏にいたって伝わってくるから。

 あぁ、もうすぐ出番なんだ。

 せわしなく動き回っているスタッフさんを見ていると、治まっていたはずの胸のドキドキが復活してきて、手汗をかきはじめる。まさか衣装で拭くわけにもいかないし、ここにはティッシュもない。取り敢えず手をブラブラさせていると、

「樹里」

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