第22話 ライブ当日3/4
「気の毒に」
「樹里ってば、そんな嘘ついちゃって」
にゃはははは、と口を押えて笑みを浮かべる。
「全然可哀想って思ってないでしょ」
はいはい、そうですよ。その通りでございます。
意地悪なお姫様に手を差し出せば、素直に手を繋いでくれた。
沈んでいくフィオを救ったのは咲羅だったけど、海の底に沈めるのも咲羅。
「仲良しこよしはもう終わり、だね」
苦笑する私に、咲羅はニッコリと笑って頷いた。
いいんじゃない。始まりと終わりが繋がってて。
推してたはずの彼女たちに、そんなことを思ってしまう私は冷たい女なんだろうな。でも、私たちがデビューしたらフィロもRoseもライバルになる。取り敢えず年内はRoseに咲羅がいるからあんまり敵視はしないけど、フィオはどうだっていい。
咲羅がいないグループなんてどうでもいい。
「2人とも、そろそろ出番だよ」
静かにステージを観ていた私たちに、駿ちゃんが声をかけた。
「了解。それじゃあ行こうか」
席を立つ咲羅に続いて、私も立ち上がる。ステージ下を見ると、既に松岡先生と加賀谷さんが待機していた。
「私たちの実力、見せつけてやろうね」
先頭を歩く駿ちゃんに続いて歩いていた咲羅が振り返り、私の手を握りながら言った。
「勿論」
その手を強く握り返し、心が騒ぎ立つのを抑えながら答える。咲羅のソロ曲は勿論、『咲き誇れ』だって……代役だけど、誰にも絶対負けない。
この日の為に必死で練習してきたんだから。
リハ後、用意してもらった美味しそうな焼肉弁当を見ても全く箸が進まない私とは対照的に、隣に座る咲羅はパクパクと口に放り込んでいく。
「なんでさくちゃん、そんなに食欲あんの……」
「んにゅ?」
口の中のものを飲み込んでから、
「だってお腹空いてるから」
左様ですか……。
ちゃんと口のものがなくなってから喋るところはお行儀がいいというか、育ちの良さが出てるというか。
「あ、樹里ってば。緊張して喉を通らない感じか」
持っていたお箸とお弁当を机の上に置いて、私の頭を撫でながら
「可愛いねえ」
「今言うことじゃないってえ」
顔が赤くなるのを感じる。
普段私が可愛い可愛いって言ってるけど、彼女から「可愛い」って言われることは滅多にないから照れちゃうんだよ。
「多分ね、私が普段通りなのは樹里が隣にいてくれるから。そりゃ
そんなん言われたら益々照れちゃうじゃん。恥ずかしくて顔を手で覆い隠す。
「それに、今食べとかなきゃライブで全力パフォーマンスできないし。樹里も食べよ?」
よしよし、と頭を撫でられているうちに、不思議とお腹が空いてきた気がする。
手の隙間からチラリと隣を見る。愛おしそうに撫でてくれている姿に胸がときめくいた。
「ほれほれ」
咲羅は私の頭を撫でながら、器用に私のお弁当を開けてくれた。
「食べな」
「……うん」
いつまでも照れてる場合じゃないな。咲羅の言う通り、ちゃんと食べないと今までの練習が無駄になる気がするし。
「いただきます」
お箸をパキっと割って、ゆっくりと食べ始める。
そんな私を見守りながら咲羅も食事を再開したのはいいんですけど、こっち見ながら食べるのやめてもらっていいですか。
綺麗な瞳で見つめられていたら、別の意味で緊張してお箸が進みません!(ちゃんと完食しました。美味しかったです。)
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