第22話 ライブ当日1/4

2月28日(日)

 漸くこの日が来た。咲羅が初めて自作の歌を披露する日、私が初めて彼女と同じステージに立つ日。そして、翔ちゃんが卒業する日。

 起きた瞬間から胸のドキドキが止まらなかった。無駄にソワソワしている私を見て、咲羅は苦笑しながら

「軽く練習しよっか」

 そう言ってスマホから音楽を流す。ありがとう。なんかしてないと落ち着かないんだよお。

 ステージを思い浮かべて彼女と踊っていると、不思議と緊張が治まった。貴女は薬かなにかですか? ありがたや、ありがたや。

「およ、なんで拝んでんのさ」

 しまった、心とカラダが連動しちゃって知らぬ間に拝んじゃってた。

「にゃはは。まあいいや、お腹空いたからご飯食べよー」

「そうだね」

 最後にもう1回だけ拝んで、朝食の準備に取りかかる。今日も朝から美しいお顔を拝めて有り難いです。あと、今日のライブが上手くいきますように。


 フィオとRose初合同、日本武道館ライブ。タイトルは『華のその2021』。開演は16時半。

 なんで合同ライブなのにドームじゃないんだよ、狭いだろ、っていう声が多々あるけれど、私は別に武道館で良かったと思ってる。やっぱり音楽を生業なりわいとしている人にとっては目標の場所だし、なにより私と咲羅の目標の場所だし。

 咲羅の参加については、通り魔事件後に『体調不良の為、岩本咲羅の参加は当日判断となります。ご了承ください』と発表したきり。アンコールだけ出演することはファンに漏れてない。もしかしたらスタッフが漏らしたりしちゃうんじゃないかって心配していたんだけど、杞憂に終わって良かった。

 早めに会場入りしたのに、廊下には何人かメンバーの姿があった。みんな初の合同ライブで緊張してんのかな。朝の私みたいにソワソワしている人がいるし。

 密着のカメラさんも当然いた。今日はライブだからステージ裏用と観客席側からと、いつもより多いカメラで撮るそうで、私たちの姿に気づくや否やカメラを回し始めた。


 あっ、翔ちゃんがいる。

 向こうもこちらに気がついたけど、スタッフさんと打ち合わせ中だったようで、軽く会釈し合うだけで終わった。うん、大丈夫そうだね。あんまり様子はわかんなかったけど、元気そうで良かった。

 因みに、私と咲羅は他のメンバーとは別の楽屋。2人だけの楽屋。表向きは「アンコールに出るだけだから」っていう理由らしいけど、それなら翔ちゃんも私たちの楽屋と一緒になるべきでしょ? でも違う。だから、多分曽田さんが咲羅のために別室にしたんだと思う。もうグループには興味がない彼女に、芝居をさせないために。

「Roseのセンターになりなさい」

 って言っておきながら、結局は咲羅が年内で卒業することを認めているみたいだし、やっぱ咲羅のことが大切で大切でたまらないんですよねー。どんな我が儘でも可能な限り叶えてるし。そりゃ依怙贔屓えこひいきって言われるわ。

 そう思いながらも、私も2人きりの楽屋で良かったと思ってる。後でインタビューをするために密着カメラが来るらしいけど、他のメンバーに気を遣わなくて済むし。ちょっと距離感が微妙なんだよね。研究生じゃないのに研究生みたいな――彼女たちからしたら一般人の私と、正規メンバーの間には決して浅くはない溝がある。

 そんなもん、これから埋めてやるけど。だって今日、咲羅の口から私たちがユニットを組むことが発表されるから。『立ち続ける』の後に話す時間を少しもらったみたい。ついでに言うと、咲羅が話した後に翔ちゃんも話すみたい。


 そして、ラスソンで咲羅と翔ちゃんの最初で最後のWセンターver.で『咲き誇れ』が披露される。そういう流れだって、さっき車の中で駿ちゃんに聞いた。


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