第21話 ライブに向けて2
そしたら、
「じゃあ樹里もおんなじで」
なんでだ。
「私、咲羅みたいに上手く髪さばけないんですけど……」
「練習あるのみ」
松岡先生もそっち側なのか。みんな私への期待値高すぎん?
「樹里ちゃんに期待してんのよ、ここにいる全員」
駿ちゃんが、松岡先生の背中に勢いよく抱き着いておんぶされながら言った。
「期待、ですか」
嬉しいお言葉なんですけどね、目の前の光景が甘すぎて脳内処理できないのよ。キャパオーバーよ。
「ま、頑張れ」
加賀谷さんまでえ。私の味方はいないのか。でも、咲羅と2人で武道館に立つためには、私も進化しなきゃいけないってことぐらいわかってる。
「あーもう! 頑張ります!」
ヤケクソ気味に叫ぶ私の頭を、咲羅が優しく撫でてくれた。相変わらず私には甘いねえ。
そういえば、曽田さんは『曲の歌詞の意味を理解して、主人公になるのに一番うまいのは咲羅』って公式動画のインタビューで語っていたけど、本当にその通り。彼のことは大嫌いだし咲羅を追い込んだことについては未だに許していない。反吐がでるくらい。でも、彼女の才能を開花させたのは、間違いなく曽田さんのおかげ。ほんの少しだけ彼に感謝してる。
だって、彼が咲羅をアイドルの道に引っ張りこまなきゃ、アイドル界の未来の女王は誕生しなかったから。
この曲をライブで披露すれば、きっと彼女は女王へと一歩どころじゃなく、何歩も前進する。だから足を引っ張るわけにはいかない。
明日が休みってこともあって、練習は夜中まで続いた。
2月27日(土)
ライブ前日、朝7時。本来であれば研究生たちが動画を投稿する曜日だから、咲羅の動画がアップされてファンは戸惑いながらも大興奮してた。実は、木曜日にパフォーマンス動画のティザーが数本アップされていた。だから、ファンの間で「これはなにかあるんじゃないか」っていう憶測が飛び交いまくってた。その反応を見た咲羅は
「くふふっ」
と口を押えて笑っていました。可愛かったです。
そして漸く今日動画がアップされたわけだから、再生回数はフィオやRoseのMV公開でも、咲羅のソロ動画でも見たことがないレベルで爆上がりしてた。休みの日で割かしみんな暇っていうのもあるかもしれない。あっという間に100万回を突破して、コメントもどんどん書き込まれていく。カラダ寄せて2人でざっと読んでいると、勝手に頬が緩んでいく。
思った通りの反応ばっかり。それでも嬉しいものは嬉しい。鼻と鼻が触れ合いそうな距離で
「チョロイ」
咲羅は目を細め口角を上げて、カメラの前では決してしたことのない表情で言った。
「言葉が悪いよー」
そう言いつつも、私にしか見せてくれない咲羅の本性に心がとろけてしまう。そっと彼女の肩に頭を乗せる。
私たちは、駿ちゃんが迎えに来るまでそのままの体制で、伸び続ける再生回数を眺めていた。
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