第19話 ソロ曲披露に向けて2/5
そのとき、衣装制作部のスタッフさんが
「お疲れ様でーす!」
元気よくドアを開けて顔を出す。あ、例の関西弁のスタッフさんだ。
「ちょっと衣装作ったから見てほしいんやけど、今ええかな?」
「にゃっす、ちょうど休憩時間だからいいでやんすよ」
「まだ仮縫いの状態なんやけどな、ほな見てもらおうか」
駿ちゃんが答えると、関西弁のスタッフさんは待ってましたとばかりに、衣装をかけたラックをゴロゴロと引っ張ってきた。
「まずは咲羅ちゃんの衣装!」
「わっ、カッコイイ!」
咲羅が駆け寄って、衣装を手にとって歓声をあげる。
たしかに滅茶苦茶カッコイイ。胸元にチェーンがついたショート丈ジャケットに、両面黒のマントが左肩につけてある。中はブラトップだから、これ前のボタン留めなきゃ腹チラじゃん! そんでもって、脚にベルトがついたスリットプリーツスカート風のショートパンツ。パンクロックって感じ。今までの咲羅のイメージとは正反対だね。
「靴はこれでええんよね? 両方黒色で、動画のときが厚底15cmヒールのサンダル、本番は厚底15cmのレースアップフロントショートブーツ」
げ、両方ピンヒールじゃん。めっちゃ踊りにくそう。いくら厚底でも、こんだけ高いと足首グギってなりそうなんだけど、
「さくちゃん、これで本当に踊れんの?」
「んにゅ? もち、もち」
早速動画用の靴を履いて
「これ履いて練習しても良き?」
「おう、どうせそれ履いて踊るんだから慣れとけ」
松岡先生OK出しちゃってるし……まあ、本人がいいなら私がとやかく言うことじゃないか。
「ほんで、こっちが樹里ちゃんとバックダンサーの衣装ね」
私たちの衣装は咲羅と色違いの白。マントはなし。それ以外は大きな違いはないんだけど、
「これってもしかして、私の靴ですか」
「もしなくてもそうやで。樹里ちゃんは動画も本番もおんなじ黒の8cm厚底レースアップフロントショートブーツで、松岡さんたちはスニーカーで」
ニッコニコしながら言ってくれましたけど、持ってみたら結構重いんですけど!?
「私も普通にスニーカーがいいんですが……」
「樹里ならこれぐらい大丈夫でしょ?」
「さくちゃんはちょっと黙ろうか」
そりゃ咲羅に比べたらヒールも低いし踊りやすそうですけど、この靴で激しい振付をこなさなきゃいけないってなると話は別です。
「大丈夫やて樹里ちゃん! 君ならいける!」
どっから沸いてくるんだ、その信頼。思わず頭を抱えると、
「樹里ぃ」
目をキラキラさせた咲羅が、私が履く靴を持って見つめてきた。
「はああああああああ」
そんな瞳を輝かせて言われたら断れません。
「わかりましたよ!」
やけくそになって言うと、関西弁スタッフさんと咲羅が
「「イェーイ」」
ってハイタッチしてた。おいおい、ハメたな?
静かにため息をつくと、
「ドンマイ」
加賀谷さんに肩を叩かれた。いや、あんた顔ニヤついてんぞ。この状況を楽しんでんだろ。
「あ、そうそう。動画やけど、あんまりバックダンサーが目立たん方がええかなあと思って、これ用意してきたんやけど……どない?」
差し出されたのは、黒いキャップ。
「およ、たしかに動画はキャップ被った方が咲羅が目立っていいかも」
「俺も賛成」
「よし、じゃあバックの4人はキャップ被ることで決定」
ちょ、私の意見は。まあ、私も賛成なんで問題はないんですけど。
ん、咲羅どこいった?
いつの間にか衣装の前から姿を消していた彼女の姿を探して振り向くと、鏡の前でピンヒールを履いて軽く踊っている姿があった。
「さくちゃん凄いなあ、あんなヒールで踊るなんて」
ポロっと感想を言うと、松岡先生が
「いや、樹里ちゃんも8㎝の厚底で踊るんだからね。身長170超えちゃうからね。咲羅だって、15㎝のん履いたらほぼ190cmだよ」
ですよねー。ここの誰よりも高くなっちゃう。私は兎に角、彼女の足が折れないことを祈るばかりです。
因みに、咲羅は1日でほぼ振り付けを覚えた。やっぱり彼女はアイドルになる為に生まれた子だ。
「樹里ちゃんだってほぼ覚えたじゃん」
駿ちゃんは褒めてくれるけれど、
「でも揃える為にはまだまだ……」
「まあ普段は敢えて揃えないようにしてるしねえ」
そう、そこがフィロともローズとも違うところ。
基本曽田さんは「振りは揃えるな。個性が消える」って言ってくれている。だけど今回は別。それはグループの話だから。
バックはシンクロ率を上げないと。モブに個性はいらない。
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