第19話 ソロ曲披露に向けて1/5
2月19日(金)
今日は、いよいよ咲羅ソロ曲の振り入れの日。ちゃんと例の『密着』のカメラが入っている。これから毎日練習や打ち合わせにカメラが入るそうだ。基本的に1、2台で回しっぱなし。流石に家にはついて来ないみたいだけど。
そして保留になっていたタイトルは、翔ちゃんと会った日に
「樹里、曲のタイトル思いついたよ」
決意を秘めた瞳で
「立ち続ける」
こっそりと言われた。
「ピッタリだと思うよ」
そう言った私に、咲羅は満足そうに頷いた。
私たちが翔ちゃんと向き合い、レッスンに励んでいる間、17日の深夜まで加賀谷さんが曲を考えて、18日には松岡先生が振りを考えだしてくれた。
同時に、咲羅の意見を主軸に衣装制作部さんと衣装を考え始めた。最初は既存の衣装でもいいんじゃないかっていう意見があったみたいなんだけど、初めての自作ソロ曲で、しかも復帰の舞台にそれはアカン!」という関西出身のスタッフさんが熱烈に新しい衣装を作ろうとプッシュしてくれたらしい。ありがとうございます。
そして、なんとまあ元ENDメンバー3人がバックダンサーとして動画にも、ライブにも参加してくれることになった。
「俺らもお前らの力になりたいから」
松岡先生が発案者らしい。カッコよすぎる。
ただ、私の緊張はMAXですよ。3人に、咲羅に引けをとらない踊りをしなきゃいけない。加えて歌も。
加賀谷さんと話し合いながら歌詞がなんとか完成したのはいいんだけど、私のパートは1行も減らなかった。咲羅がごねたと後から聞きました。申し訳ないです。
「松岡先生、これ厳し過ぎません!?」
今まで何度もレッスンに参加してきたけど、この振り付けは群を抜いて難しすぎる。
他の人たちも口々に文句を言い始める。
「文句言うなよ、お前らならこれぐらいできるだろ」
その期待、ちょっと仕舞っていただけないでしょうか……。
流れる汗を拭っていると、加賀谷さんが
「松岡の振り付けって本当ファンに躍らせる気のない振り付けするよね。でも普段はみんなが踊りやすいようなアイドルらしい振りばっかりしてるから、鬱憤溜まってんのよ。その点咲羅ちゃんとか樹里ちゃんはどんな振りをしても対応してくれるから、好き勝手やってんのよアイツ」
苦笑しながら教えてくれた。
たしかに、動画で咲羅のソロ曲はアップされてるけどアイドルらしさを前面に出した華やかな振り付けだし、こんなに力強い曲はない。
なるほどね。松岡さんは大暴走しているわけだ。曽田さんも「咲羅の好きなようにさせてやれ」って言ってるらしいし。
一人納得していると、
「やっぱ俺、三春の振り付け苦手だわー」
駿ちゃんなんて床に寝っ転がりながら
「無理い、疲れたー」
って叫んだ。疲れたにしては爆音ボイスなのはなんでですか?
「お前は相変わらず苦手だな」
松岡先生はそう言いながら彼に近づいて、汗にまみれた顔をタオルで拭いてあげながら言う。
目を細めて眉も下がって……え、なんか私たちと扱い違うくない? 声色も甘いし。
「だって難しいんだもおん」
そう言うと、唐突に松岡先生に抱き着いた。
「お前ならできるだろ」
駿ちゃんを抱き上げたかと思うと、そのまま横抱きにしてその場でグルグルと回り出す。
できてんのか、あんたら。駿ちゃんキャッキャと騒いでんぞ。
ああ神様、今すぐ私を壁にしてください。もしくはモブにして遠目で見守らせてください。私にはこの空間は甘すぎます。
その光景を静かに見ていた咲羅が
「私もやりたーい!」
と叫ぶと同時に、私を横抱きにして
「え、ちょ!?」
私の静止を無視してクルクル回り出した。止める隙なんてなかったんですけど。手慣れ過ぎてない?
あんたの細い腕が折れるって!
この謎のクルクル大会は駿ちゃんが飽きるまで続きました。なんか無駄な体力が削られたんですけど……。ちゃっかり密着のカメラに撮られてたし。お願いだからカットしてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます