第17話 咲羅には内緒2

「……咲羅も関わってると思います」

 多分、じゃなく絶対。

「その証拠は?」

「ありません」

「堂々と言うなあ」

 苦笑しながら、彼は犯人の素性について記された書類に視線を落とした。

 それをざっと読んでわかることは、咲羅とはなんの接点もないということ。だから、咲羅は関わってないと言える。

 でも、

「敢えて言うなら」

 資料を見つめたまま

「咲羅って意外と腹黒いんですよ。自分より目立っているメンバーは許せないし、足を引っ張るメンバーも許せない。だから、自殺未遂で翔ちゃんが注目を集めてしまったのが、悔しかった」

 彼女にとって、翔ちゃんが自殺を図ったのは流石さすがに想定外だったと思う。精神が限界を迎えるのは想定内だったんだろうけど。

 そして、自殺未遂に動揺してしまったのも咲羅の本当の気持ち。まあ、すぐに立ち直ったとは思うよ。

 部屋に籠もっていたのは、これから自分がどう復活すれば一番注目を集められるか考えていたからでしょうね。私をあざむこうっていう考えもあったんだろうけど、そんなので私がだまされるわけないのにね。

 彼女は世間が思っているような、か弱い女の子みたいなメンタルは持ち合わせていない。

 幸か不幸か。

 今はもう、咲羅の気持ちの切り替えの早さは右に出る人はいないよ。


「彼女以上に『悲劇のヒロイン』として世間の注目を集める必要があった。だから、曽田さんに頼んで通り魔事件を起こしてもらった」

「その証拠は、俺が調べた限り1つも出てこなかったぞ。それでもそう思うんだな」

「はい」

 Roseで後ろに下げられてから、彼女は変わった。真っ白じゃなくなった。どんどん心が黒く染まっていっていた。

 いや、違う。

 Roseのデビュー1周年記念ライブぐらいから「出たくない」「もうやりたくない」って言い出した頃から、それが演技だってことぐらい。 動画で見せる涙も、言葉も全て演技だってわかってた。

 みんなを騙せても、私はお見通しだよ。

 咲羅は私がなにも知らないと思ってる。でも、何年一緒にいると思ってるの。どれだけ着飾ろうと、私の前ではただの『岩本咲羅』なんだよ。

「全く、『勘』ってやつは頼りにならないことが多いんだけど、お前が言うならきっとそうなんだろう」

 お前を信じるよ、四月一日さんはそう言って、

「曽田との繋がりは絶対どっかにあるはずだ。もうちょい探ってみるよ」

「あの、お金って――」

 机の上の資料を片付けながら

「俺が知りたいから調べるだけだ。いらねえよ……ほら、そろそろ出ねえと。咲羅に怪しまれんぞ」

「ありがとうございます」

 頭を下げて席を立つ。本当にそろそろ出ないと。


「あ、一つ聞いていいか」

「なんですか」

 ドアへと向かっていた足を止めて、振り返る。

「お前ってさ、咲羅のこと――」

「好きですよ。どんな咲羅でも」

 それだけ答えて、ドアノブに手をかけた。

「お前も中々黒いな」

 呟くような四月一日さんの言葉には反応せず、ドアを開ける。

 あぁ、一つ言い忘れてた。

 もう一度振り返り、

「咲羅が黒さを引き受けてくれるなら、私はなにも知らないフリを続けて、彼女が望むように『真っ白』でいようと思います」

 それでは。

 今度こそ事務所を出て、階段を下る。

 咲羅をアイドル界の女王にする為なら、私は何度だって見ないフリをして彼女を支える。

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