第17話 咲羅には内緒1/2

 学校終わり。いつもは一緒に下校するけれど、「今日ちょっと実家に寄って来る」と咲羅とは別行動をとらせてもらう。2人で1人みたいな私たちだけど、今日だけはいてもらっちゃ困る。

 そしたら

「18時半に武道館前ね」

 って言われたんですが。一体なにをするつもりなんだろう……。いくら考えても思いつかない。


 そんなこんなで私はあるビルの前にいた。

 昨日四月一日わたぬきさんとこっそり連絡先を交換して住所を送ってもらったけど、思いのほかこじんまりとした建物で「え? ほんとにここであってる?」って周囲をウロチョロしちゃった。不審者すぎる。

 ビル1棟四月一日さんが持ち主らしい。都内だし、そこそこの値段はするんだろうなあ。流石元アイドル。

 2階にある事務所へ階段を上っていると、

「よお、待ってたよ」

 ドアが開いて四月一日さんが顔を出した。

「ここ階段登ってくる音が結構響くんだよ」

 なんでわかったの?

「私が質問しようとしたこと、先回りしないでくださいよ……」

「そんなこと言うなって。ほら、入りな」

 若干の不満を覚えつつも、促されて中に入ると

「え、汚な」

「いきなり失礼だなっ」

 書類はあちこちに散らばってるし、新聞やら本やらが積み重なり過ぎて今にも崩れそうだ。というか、あっちこっちで崩壊してる。

 片付けろよ。

「これ、依頼人来たらドン引かれるでしょ」

「いつもは綺麗だし」

 じゃあ、私なら「片付けなくても大丈夫だろう」って考えたのか?

「あっ、間違えた。ここ最近忙しかったから片付ける暇がなかったんだよ」

「今更言い訳されても遅いです」

 まあ、本当に忙しかったんだろうから、今日のところは多めに見てあげよう。

「厳しいねえ樹里ちゃんは。ま、取り敢えずそこのソファーに座ってよ」

 いや、ソファーの上にも資料散らばってるんですけど。私見ちゃいますけど……ってこれ、

「通り魔の資料じゃないですか!」

「え、そんなとこにあったの? 昨日から探してたんだよねー」

 サンキュー、サンキューと言いながら、私が拾い集めた資料を改めて机の上に広げて、向かい側に座った四月一日さん。

 ヤバイなこの人。

「他にスタッフさんいないんですか」

「あー、助手が1人いるだけよ。小規模精鋭でやってんのよ、うちは」

 少数過ぎるだろ。2人って、それちゃんと探偵事務所としてやっていけんのかな。


「てか、この後予定あんだろ? 時間もないし、さっさと本題入るぞ」

「まあそうですね」

 今日私がここに来た目的は、例の通り魔事件について四月一日さんに調べてもらった報告を聞く為。

 咲羅抜きで。

「樹里ちゃんの記憶が正しければ、通り魔事件の犯人の顔、見覚えがないんだよな?」

「はい、ライブでも歌番組の番組協力でも見覚えがないんですよ。それに、襲われたときに一瞬見えた顔は、どこか冷静でした」

 それに、『翔ちゃんの為』っていうのも理由としてなんか……納得がいかない。

「お前、いい勘してるよ。探偵になん――」

「なりません」

「最後まで言わせろやっ」

 ん? いい勘してるって言った? それって、

「まっ、話を戻すけど、警察の知り合いに話を聞いたんだが、犯人はお咎めなしで釈放されたそうだ」

「どうして……」

「樹里ちゃんさ、気づいてるんじゃないの」

 目をそらしてるだけじゃないの。

 そう言われ、俯くしかなかった。だって、その通りだったから。私は真実から目をそらしている。

「因みに、曽田の同級生に警察のお偉いさんがいるんだよね」

 ああ、もうビンゴじゃないか。

「やっぱり曽田さんが絡んでるんですね」

「曽田だけだと思うか」

 顔を上げると、真剣な眼差しで四月一日さんが私を見つめていた。

 逃げられないなあ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る