第3話 歌番組3/5

「だからかも」

「ん?」

 咲羅の部屋の様子を思い出しながら、

「睡眠薬、飲む量が以前よりも増えてるんです」

「なるほど……ね。私から曽田さんに相談してみる。なにかが変わるとは思わないけど、話さないよりはマシだと思いたいから」

 琴美さんは顎に手を当てて、そう言った。


「よろしくお願いします」

 頭を下げた後、スタッフさんと話す咲羅を2人揃って視線を向ける。

 いつもよりは元気少なめだが、なんとか上手く『岩本咲羅』を演じられている。この調子なら今日は大丈夫そうだ。

「そんなに頭下げないでよー。咲羅に怒られちゃう」

「……怒られちゃう?」

「おっと」

 口を滑らせた、とでもいうように口に手を当ててあからさまに視線をそらす。

「どういうことですか」

 ぐっと顔を近づけて詰め寄ると、

「これ以上近づいたら私が殺される」

 そう言いながら両肩を掴まれて距離をとられた。

「ほんとになにを言ってるんですか?」

「ありがとうね、鈍感主人公で」

「は?」

 それはそうと、と話題をキラキラ王道スマイルで私を見つめながら

「樹里ちゃん、茜推しでしょ? 今日はいなくて残念だねえ」

 ちょっと眉を下げて笑って言ってくれた琴美さんは、本当によくわかってくれている。

 私がアイドルにハマるきっかけとなったのは、今ではファンからもメンバーからも『アカ姉』と呼ばれるフィオの1期生、EndLess時代の『井上茜』に魅了されてしまったから。


「そうなんですよ~。でも事務所推しなんで、全員推しです!」

「ちょっと頭イカれてるよね」

「バカにしてます?」

 してないしてない、と頭を撫でられる。これは、全国の琴美担に殺されるな、私。

「あれ? でも私がアカ姉さん推しだってこと、話しましたっけ?」

「ここだけの内緒ね」

 そう言うと私の耳元に口を寄せて

「咲羅が『なんで樹里はアカ姉も推してるの!? 私の単推しであれよ!』って毎日のように言ってるから」

「えっ?」

 驚いて琴美さんの目を見つめると、「嘘じゃなよ~」と口元に手を当てて笑った。はい、あざとい。


「ちょおおおおおおおおい」

 琴美さんと見つめ合っていると、何故か大声で叫びながら咲羅が駆け寄って来て

「近いっ!」

 と私たちの肩を掴んで引き離した。

「なになになになに、てか全力で走ったら髪型崩れんじゃん! ほら、直してもらいに行くよ」

 ちょっと怒りながら彼女を引っ張って歩き出すと、一瞬で大人しくなって「ごめんなさい」と謝って来た。うん、可愛いから許す。

 そして、私たちは知らない。後ろで見守っていた琴美さんが「青春だねえ」と両手を頬に当てて呟いていたことを。

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