第9話 ライブに向けて3
話し合いが終わって会議室を出る曽田さんと駿ちゃんを見送った後、咲羅に
「アンコールだけに出るって、本当は最初から決めてたでしょ?」
片方の眉毛が吊り上がるのを感じながら問いかけると、彼女は
「やっぱり樹里にはバレてたかー」
腹を抱えて笑った。ちょっと腹に据えかねてたけれど、あんまりにも彼女は楽しそうに笑うもんだから、思わず吹き出して私も笑ってしまう。
「無理無理無理、咲羅が私に隠し事できるわけないじゃん」
「だよねー」
会議室に2人の笑い声が響き渡る。廊下にも漏れ聞こえているかもしれないけど、まあいっか。
ヒイヒイ言いながら
「笑い過ぎて横隔膜が痛いわあ」
と椅子の背もたれを掴みながら言った後、
「樹里にもね、こういう黒いところを知っておいてほしかったの。なんていうか、アイドルのちょっと駆け引きというか」
なるほどね。だから私も同席させられたわけですか。
顔に笑顔が張り付いたままだから全く真面目さには欠けるけれど、彼女の言葉は真剣そのものだった。
「ありがとね、今日のはいい経験になったよ」
「本当は『ありがとう』なんて思ってもないくせにっ。だって話してる間の咲羅の表情ったら……」
お腹をさすりながらもまた笑い出しそうな顔で言ってくる。
「だって、私曽田さん嫌いだもん」
「わっはー言っちゃったよ、これから私たち2人ともお世話になるのに」
「嫌いなもんは嫌いだもん」
両手を顎に寄せてあざとらしく言ってみれば、咲羅はお腹を抱えて
「可愛いけど、面白すぎてもー無理っ」
ヒャッヒャッと引き笑いするもんだから、また私も釣られて笑ってしまう。
私たちの爆笑は、駿ちゃんが「そろそろレッスン――」と会議室に入って来てドン引きされるまで続きました。マジで横隔膜が千切れるかと思ったわ。
レッスンスタジオに行くと、先に咲羅がアンコールのみ出演することを伝えておいてくれたみたいで、今日は『咲き誇れ』をメインで練習することになった。
「樹里ちゃん、今日は翔の代役として参加して」
「わかりました!」
待った、翔ちゃんの代役?
元気よく返事をしてしまったけれど、この曲は彼女がセンターだ。ということはですよ、私がセンターで踊ることになるわけですよ。
オーマイガー。固まっている私の肩をポンッと誰かが叩いた。横を見ると、
「やるよ、樹里」
口角を上げて、私の腕を掴んで立ち位置へと引っ張っていく。と、突然立ち止まったかと思ったら動画投稿サイトにアップするために回されているカメラに向かってギャルピースをキメた。
「ほら、樹里も」
ちょい、私を巻き込むな。私はやんない、だからあんたそれ、ファンが戸惑うからやめなさいってば。ってわちゃわちゃしている様子もしっかりカメラに録られていた。
「おい、お前らいつまでそこにいんだ! 始めるぞ」
振付師さんからお叱りの声が飛んできたことで、漸くギャルピース戦争から解放された。なんか無駄に体力を消費した気がするんですけど。
そう思いながら、センターに立つ。曽田さんにはまだ言っていないけれど、アイドルとなると決めた以上、今まで以上に気合を入れてレッスンに励もう。
よしっ、いっちょ頑張りますか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます