第9話 ライブに向けて2/3

「立ち止まっている暇はないんです」

 曽田さんに向けたその視線は、力強さが宿っていた。迷いのない真っすぐな瞳。だけど、机の下では両方の手を握り締めている。

 あぁ、そうだった。この子は強くなろうとして強くなったんじゃない。強くならざるを得なかったんだった。ステージに立ち続けるために。

 だったら私にできることは決まっている。今回も咲羅を支えるだけ。

 机の下で彼女のこぶしに手を重ねると、こちらを向いてふわりと微笑んでくれた。

「君の気持ちはわかった」

 曽田さんが席を立った。

 え、それだけ? 彼女の必死の思いをそんな一言だけで片付けるの? その態度はあんまりじゃないか。

 彼の傲慢ごうまんな態度に我慢ができず声を荒げようとした瞬間、

「それならば、アンコールだけ出るという案がある」

「へ?」

 曽田さんからの思わぬ提案に、怒りの言葉の代わりに出たのは、なんともまあ間抜けな声。拍子抜けしてしまって腰をストンと落とす。知らぬ間に立ち上がりかけていたみたい。

 相変わらず私を気にする様子はなく、彼は話を続ける。

「アンコールの『咲き誇れ』にサプライズ出演して、復帰宣言をすればいいと私は思うんだけどね。どうだい?」

 どこか冷たさを感じさせる笑みを浮かべた曽田さんに、咲羅は

「出たいです」

 即答だった。

 これには私もビックリ。駿ちゃんも驚いた表情を浮かべてるし。


 もしかして、2人ともこうなることを想定してた? あまりにも迷いなく答えるもんだから、穿うがった見方をしてしまう。曽田さんは咲羅がなんて言おうとライブに出す気で、咲羅は咲羅で1番自分が目立つ方法でライブに出るつもりだった。

 だって彼女はさっき、「出たくない」「出られない」じゃなくて「パフォーマンスできる自信がありません」と答えてた。その言葉の奥底を覗いてみれば、「1曲だけなら出られる」という風にも聞こえる。

 そして1曲だけとなると、中途半端にライブの途中で出るんじゃなくて、アンコールで出た方がいい。インパクトもあるし、活動再開を宣言するにはピッタリだ。

 うわあ、なにこの不毛な話し合い。こういうの、なんて言えばいいんだろう。そうだ、出来レースだ。

 本当に私がいる意味あった?

 駿ちゃんの方を見ると、バッチリ目が合って彼は苦笑していた。多分駿ちゃんも私と似たり寄ったりな思いなんだろうなあ、ご愁傷様です。


 その後は話がトントン拍子に進み、咲羅がアンコールだけ出演し復帰宣言と共にRoseに残ると発表することが最終決定された。

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