第10話 アイドルの現実1/3

 毎日ライブに向けて練習を重ねていく。毎回私は翔ちゃんの代役だけど、よくよく考えれば彼女が出る前提で練習してるよね。いいのか? 事務所はちゃんと翔ちゃんと話し合いができてるのかなあ。

 彼女がなんで自殺しようとしたかなんて本人に聞いてみないとわからないけれど、そうしなくちゃいけない程追い込まれてたってことでしょ。それなのに28日のライブに再びセンターとして参加できるとは思えない。これまた彼女がセンターの『消された存在』と『失敗作なんていらない』はセットリストから外されてるけど。

 練習の休憩中にそう咲羅に言うと、

「直接聞くしかないね」

 スマホに素早くなにかを打ち込んだ後、コーヒーを一気飲みした。いや、コーヒーって一気飲みするもんじゃないでしょうが。味わって飲みなさいよ。味覚の無駄遣いしてんじゃないよ。

 その日の帰りの車内で、駿ちゃんが

「咲羅、さっきの件。俺っちに任せといて、なんとかするわ」

「うん。お願いね」

 なんの話かさっぱりだけど、多分翔ちゃん絡みの話な気がする。私の勘ってよく当たるのよ。

 きっとそのときが来たら咲羅が話してくれるだろうし。今は口を挟まないでおこう。

 ふわあ……眠ぅ。

 流れいく車外の景色を見つめていたらなんだか眠くなっちゃった。眠気に抗うことなく、私はゆっくりと瞼を閉じた。


2月15日(月)

 今日はRoseの1期生詩野しのちゃんと、2期生美里ちゃんのバースデーライブが18:30から行われるから、その前にちょっと事務所にお邪魔することになった。

 というのも、ちょっと「フィオの研究生たちの練習覗いてみない?」と駿ちゃんからお誘いがあったからだ。咲羅はあんまり興味なさげだったけど、私はいい勉強になるかなーと思って、誘いに乗った。

 そしたら咲羅も「樹里がいくなら」って着いてきた。このひっつき虫め、かあいいねえ。

 彼女たちは去年の12月から研修生として活動していて――活動といっても、公式動画チャンネルでレッスンの様子や、事務所内でのちょっとした様子がアップされるぐらいだけど。因みに合格発表は4月上旬。

 今まで研修生から落とされた子はいない。それでも絶対に落とされないなんて保証はないから、彼女たちは毎回必死にレッスンを受けている。花道を自分で切り開くために。

 事務所に着いた頃には既にレッスンが始まっていたから、彼女たちの邪魔をしないようにそっと会釈をしながらスタジオに入った。


 うーん、やっぱりまだまだ未熟だなあ。そりゃ12月から比べたら成長してるのはわかるけど。毎週動画観てるし。睡眠時間を削ってでも観てますわよ、だって事務所箱推しだし。

 隣の咲羅も厳しい顔をしている。トップを走ってきた彼女は、当然のことながら私以上に観る目は厳しい。

 一番練習に熱心なのは……あの人だ、研究生の最年長で先月21歳になったばかりの人。他の人よりも先生の指導についていけてる。でも、年齢的に結構ギリギリだなあ。

 他所よその事務所では30歳近くまでアイドルをやる人が最近はいるけれど、21歳からアイドルってなると……。幸いなことに、この事務所は振りを揃えないスタンスだけど、振りを自分のものにしてファンに認めてもらうまでに、他の子みたいな猶予はない。『アイドルは青春を捧げてる』って誰かが言ってたし私もそう思うけれど、彼女は人生を賭けてアイドルになろうとしている。

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