第5話 貴女のためにできること2/4

 咲羅が部屋に閉じこもって3日目、あれから毎日泊まっているけれど、彼女は出てきてくれない。

 因みにスマホは彼女に返してある。眠っている間に、枕元に置いた。


 絶対良くないニュースも見てしまっているだろうけど、彼女を心配しているファンが沢山いることを知ってほしかったから。

 今日はここに来る前に実家に寄ったから、お母さんの手料理を貰って来た。肉じゃがやらハンバーグやら、咲羅の大好物ばかり。

 それを温めて部屋をノックするけれど、やっぱり返事がない。だけど、彼女は起きてる。そんな気がする。

 もう一度ノックをして

「入るよ」

 そう声をかけてドアを開けてみると、相変わらず咲羅は布団を被ったまま。

「今日の夕ご飯ね、お母さんの手作りだよ。さくちゃんが大好きなものばっかり」

 話かけるけれど、無視。それでもいい匂いに釣られてか、布団がもぞもぞと動く。

「あとね、翔ちゃんから連絡が来たの。さくちゃんに連絡してみたけど返信も既読もないからって」

 夕食を乗せたお盆を一旦ベッドサイドに置いて、ポケットからスマホを取り出す。

「《大丈夫ですか》って。あの子本当にいい子だよね。自分もしんどいだろうに、短い言葉でも心配のメッセくれて」


 しかも自分が原因で咲羅が襲われてしまったことは、ニュースを見ていれば知っているはず。それなのに、連絡をくれた。咲羅に「お前のせいで」って罵られてもおかしくないのに。

 本当に優しい子。だからこそ、心を病んでしまったのかもしれない。周囲に気を配り過ぎて、自分の心を置いてきぼりにしてしまったのかもしれない。

 彼女と直接話せていない私には、想像することしかできないけれど。


「あ、そうそう。さくちゃん、少し動けるようになったら髪の毛整えに行こっか。駿ちゃんが、事務所に知り合いの美容室の人呼んでくれるって。思い切ってショートヘアにしてみても――」

 布団からにゅっとスマホが出てきて、

「……にする」

「え?」

 なんて? 聞き返しながらスマホを覗き見ると、画面には姫カットの写真。

「これにする」

 そう言って彼女は布団をめくって起き上がった。

 わーお。久しぶりに彼女の顔をちゃんと見たけれど、髪の毛ぼっさぼさじゃん……可愛いんですけどね。

「樹里」

 思考が彼方へと飛んでいた私を引き戻すように、

「これにする。長さは変えない。だって樹里、ロングの方が好きでしょ」

 真剣な目つきでそう言った。

「どんなさくちゃんでも好きだけど、私がロングの方が好きって言ったこと覚えていてくれて嬉しい」

 咲羅を優しく抱きしめる。元々細かった彼女は、ここ数日寝ては食べての生活だったせいか少し柔らかさが増していた。うん、健康的で良き良き。


 そして私たちは、久しぶりにリビングで一緒にご飯を食べた。学校であったこと、事務所での様子を話しながら。

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