第2話 咲羅の人生1/2

 元々フラワー・エンターテインメントにはボーイズグループしかなくて、新しくガールズグループを2組発足させることが発表されていた。それが『EndLess』と『FioRe』。その両方をプロデュースするのが、曽田さん。フラワー所属のグループはほとんどが、彼のプロデュースだ。


 動画投稿サイトに事務所が『フラワーガールズ』っていう公式チャンネルを作って、そこに練習動画とか事務所のボーイズグループの曲をカバーした動画をアップしていた。今は水曜日がフィオ、木曜日が咲羅個人の枠、金曜日がRose。

 だから元々注目度は高くて、そこに咲羅がスカウトされて唯一のオーディションなしで、短い練習期間で1.5期生としてフィオに加入し更に注目度が高まって。彼女たちの動画が投稿される度に再生回数が急上昇していった。

 そして2016年3月2日『舞って花』でデビュー。事務所がそこそこの大手というのもあって、デビューしてすぐに深夜だけど歌番組に出演させてもらえていた。と、思ったらすぐに朝の情報番組で生披露もらえて。


 だけど1位は取れなかった。今まで曽田さんがプロデュースしてきたボーイズグループは、デビューしてすぐに1位を獲得できていたのに。

 『11歳、最年少センター』。最年長の佐藤瑠実さんとのWセンターだったけど、やっぱり一番注目されていたのは咲羅だった。いろんな番組や雑誌で取り上げられて、咲羅旋風が巻き起こっていた。だからこそ、彼女のあどけなさを『天使』『これからの成長が楽しみ』と言ってくれる人もいれば、『なんでこんなのがセンターなの』『EndLessにもっといいメンバーいたでしょwww』って叩く人もいた。

 それに加えて、EndLessとしてデビューするはずだった人たちが『未成年飲酒』や『未成年喫煙』で脱退したせいか、フィオの評価は割と辛口だった。


 メンバー間の仲も最初は、ハッキリ言って良くなかったらしい。2ndシングルからは咲羅が単独センターになったこともあり、嫉妬がもの凄いと駿ちゃんがこっそり教えてくれた。

 瑠実さんや1部のメンバーは一緒に行動したり話の輪に入れてくれたりしてくれたみたいだけど、同じく最年長である井上茜さんとの相性は最悪だった。

 無視もされたし、私物も隠されたらしい。見て見ぬふりをするメンバーもいれば、こっそり助けてくれるメンバーもいた。でも、ほとんどのメンバーが面倒事に巻き込まれたくないのか、どこか他人事。

 事務所だってなにもしてくれなかった。


 そんなことが続けば周りのみんなが敵に見えてくる。一時期は軽く人間不信になりかけていたけれど、彼女はステージに立ち続けた。「絶対1位を取ってみせる」って。

 だけどグループ内の不和ってファンにも伝わっちゃうのかな。デビューして1年で出したシングルは3枚。全て1位を獲得できなかった。

 それでも咲羅は毎日レッスンに励んだ。個人で木曜日に歌ってみたや踊ってみたを投稿する枠を貰って、いろんなアイドルやアーティストの曲をカバーして、アイドルファンじゃない層を取り込もうと必死だった。

 どんなに忙しくてしんどくて苦しくても、それを表に一切出さずにセンターをこなす咲羅を見て少しずつメンバーたちが変わりはじめた。

 嫉妬はどうしてもあったみたいだけど、それを表立って言うことはなくなった。咲羅がダンスをミスすれば他のメンバーが庇い、他のメンバーが歌詞を飛ばせば咲羅が何事もなかったかのように歌った。


 そして漸く、2017年3月20日に出した4枚目のシングルで1位を獲得できた。それを発表されたときの動画がサイトにアップされ、みんなが悲鳴のような歓声をあげて抱き合って泣きじゃくる姿にファンも涙した。

 このシングル以降彼女たちは1位を取り続けている。

 ファンから見ていれば順風満帆だった。表面上は。

 仕事やレッスンで学校にあまり来られなくなった咲羅に、ノートやプリントを持って行く度に彼女は涙をボロボロとこぼしていた。メンバーやスタッフさんに零せない愚痴もこぼしてくれた。「センターとしてやっていく自信がない」「今日もアンチコメントが凄かった」。

 そう言いながら見せてくれたSNSには、「踊りながら歌って音程外すなら、ちゃんと練習してこい」「笑顔が引き攣ってる」「今日もターンの後フラついてた。センターのヤツ、ちゃんと練習してる?www」と咲羅を叩く言葉ばっかり。


 私はそれをただひたすら受け止めることしか出来なかった。素人の私がアドバイスしたところで、どうにもならないことはわかっていたから。家からは歩けば遠かったけど、自転車をぶっ飛ばせばすぐに着くから、彼女からSOSが発信されたら家に飛んでいけた。「ダンスの練習を観てほしい」と言われれば練習に時間が許す限り付き合ったし、「表情の勉強がしたい」と言われれば、一緒に他のアイドルのライブを観に行った。

 その度に、駿ちゃんに「ありがとうね」と言われたけれど、私ができる最大限のことをしているだけだった。


 だから『なにかあれば私に助けを求めてくれる』、そのことに満足して彼女の心の傷がどれだけ深かったかなんて考えていなかった。彼女の支えになれていると自己満足していた。

 それに、マネージャーの駿ちゃんは咲羅の叔父さんだったから、なにがあっても大丈夫だと過信していた。


 12歳の夏、咲羅がカラダを切っていることに気が付くまでは。

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