第7話 本当の気持ち2/6 回想

 フィオがデビューしたときのことを思い出してみる。

 彼女たちは最初から順調だったわけじゃない。デビューシングルで1位をとれなかったどころか、まさかの3位。「次こそは絶対に1位を」そのプレッシャーを彼女は背追い込まされた。

 毎晩遅くまで練習に励んで。それでも学校は休まず来た。

 倒れるのは想定内だった。アンチコメントを読んで寝られない毎日だったらしい。学校で倒れた咲羅だけど、「仕事に行く」「歌番組だから」と言って聞かないもんだから駿ちゃんに連絡を取って。

 タクシー代はこっちで出すからって、一緒に現場まで行った。それが初めて。それからも、何度も咲羅に強請ねだられてついていくことが増えた。

 駿ちゃんが「折角だから見学していきな」2枚目のMV撮影も見学させてもらったけど……絶対にコケられないという、曲には似合わないピリ点いた空気。

 なるべく存在感を消して観ていようと思った。でも、咲羅がしんどそうで「衣装凄く可愛いね!」と話しかけていたら瑠実さんが、「花がモチーフでね、1人ひとりデザインがちょっと違うの」って衣装を見せてくれたのを皮切りに、他のメンバーも「私のはね、アサガオなんです!」

「私はバラ」

「それで、咲ちゃんのはブルースター。花言葉は『幸福な愛』」

 自然とメンバーだけじゃなくて衣装さんたちも集まっちゃって、和やかな空気のまま撮影が始まった。


 2枚目はSNSでの広告にも力をいれたし、バラエティにも沢山出させてもらってMVの再生回数もそこそこいっていた。私も沢山買ったし、ファンは頑張って1位にしようと沢山かっていた。

 でも、結果は2位だった。

 そうなれば責められるのはセンターの咲羅で。「未熟すぎ」「この子がセンターのままだったら、フィオ推すのやめようかな」、動画でもSNSでも散々叩かれた。

「どうすればいいの」

 泣いている咲羅を抱きしめたとき、この子を傷つける奴らはみんなただじゃおかないと誓った。

 悔しくて悔しくて毎晩泣いていた彼女を慰めた。

 だけど、そこで彼女に立ち止まらなかった。

 自費でボイトレに通い出して、学校以外の全ての時間をフィオに捧げた。

 3枚目のシングルの前に「もうセンターはやりたくない」と曽田さんにお願いしていたのに(公式動画にアップされていた)、3枚目もセンターだったし、変わらず2位だった。

 どうして、なんで。ファンもみんなもそう思っていたはず。

 グループ内の空気は本当に最悪だった。レッスンにはいつも暗い空気が流れていたし、「このグループには未来がない」そう事務所内で囁かれるようになっていた。

 それでも咲羅は諦めなかった。居残り練習もボイトレも前以上に熱を入れるようになった。

 少しずつ笑顔が減って行く彼女を、ただ見ていることしかできないのが辛かった。


 しかも、毎年10cm身長が伸びている咲羅は、成長痛に悩まされていた。だけど

「ファンのみんなには関係ないことだから。いつも最高のパフォーマンスを届けるだけ」

 そう言って気丈にステージに立ち続けているのに、アンチは増加していくばかりだった。

 いつか、咲羅の心が壊れてしまわないか気が気でなかった。

 それなのに、

「アイドルだから色々言われて当たり前なんだよ。だから、何を書かれようが言われようが、私はなんとも思わない。でも、ファンのみんなが傷ついているのは見たくない」

 公式動画のMV撮影中に彼女が語ったこの言葉は、私たちファンの心に強く残ってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る