第7話 本当の気持ち3/6 回想
そんなある日、彼女は曽田さんに直談判して「グループの為に」、と公式チャンネルの木曜日に咲羅単独の枠を貰い、『歌ってみた/踊ってみた』をアップするようになった。「
「私を通じてFioReをみんなに知ってもらいたい。他のメンバーからなにを言われてもいい。今はグループを世間に広めたい。」
そう言ったときの彼女は、心もカラダもボロボロのはずなのに輝いて見えた。
「咲羅ならできるよ」
そう伝えると、彼女は向日葵のように明るい笑顔で笑ってくれた。それから必ず毎週アイドルだけじゃなく様々なアーティストの曲をカバーしたり、踊ったりして。最初は全然伸びなかった再生回数も、投稿を重ねるごとに増えていった。それに付随するようにフィオのMVの再生回数も。
そして、もう一つ曽田さんに志願したことがある。
「4枚目のセンターをやらせてください」
後から駿ちゃんから聞いたけど、正直言って驚いた。3枚目のときは嫌がっていたから。
たった12歳の少女が懸命にグループの為に動いていることはメンバーにもちゃんと伝わっていて、彼女を中心に居残り練習をしたり、バラエティで爪痕を残そうとしたり、自分にできることをみんなした。
特に、3枚目からフロントの咲羅、瑠実さん、アカ姉さんはファンの中で『御三家』と呼ばれるようになって、2人が内心はどう思っていたかはわからないけれど、咲羅を引き立てようと一歩下がってパフォーマンスをしてくれた。
そうして、漸く4枚目でシングルランキング1位を獲得できた。
そのときの彼女の嬉し涙が忘れられない。
動画にも残っているけれど、ランキングの結果が発表されたとき、メンバーたちは事務所の一室に集められた。
みんな緊張した面持ちで、咲羅は膝の上で両手をぎゅっと握り締めていた。
「今週のシングルランキング1位は……」
画面の外からスタッフさんの声がして、
「FioRe『桃源郷』です!」
悲鳴にも似た歓声が一室に響き渡っていた。咲羅は泣いていて、両隣の瑠実さんとアカ姉さんに抱き締められている姿がファンの中で「尊い」と話題になった。
もう一つ嬉しい報告だったのは、この曲がCMに起用され、御三家が出演を果たしたこと。
この曲からグループは波に乗り、咲羅は絶対的なセンターになった。
出る曲の全てでセンターを任され、数少ないソロパートは必ず彼女が担当した。
グループでもラジオ番組をもたせてもらって、1周年記念ライブを東京国際フォーラムでやらせてもらえて。4枚目以降出すシングルは全て1位を獲得できるようなった。
咲羅は個人でもドラマやCMに出たり、公式チャンネルの個人枠では今まで日本人の曲ばかり歌っていたけど、英語や韓国語の勉強をして海外アーティストや韓国アイドルの曲をカバーし始めたりと、更に精力的に活動し始めた。
全てが順調だった。怖いほどに。
ただ注目が集まれば前よりも、アンチコメントやそれに似たコメントが増えるのは当然で。
成長期の女の子なんだから体重が増えるのは当然のことなのに、「太った?」というコメントが目立つようになった。
正直言って、「これ書いたヤツの目玉どこについてんだよ」と思った。だって、160cmになった彼女の体重は50kgあるかないか。
駿ちゃんも私も気にしないように言い聞かせて、暇さえあれば瑠実さんたちにご飯に連れて行ってもらったり、お母さんに協力してもらってご飯を作って持って行ったりした。
誰よりもプロ意識が高い彼女だからこそ、「太った」なんて書かれたら、無理して痩せようとしてしまう。
それ以外はグループは順調に歩みを進め、2017年末には2期生が加入し、翌年の3月4日に2周年ライブを行った。
ただ、2期生を迎えたことでフィオは選抜制になった。つまり、1期生だとしても選ばれない人間が出てきた。
その筆頭がアカ姉さんで、いつしか御三家と呼ばれることはなくなった。
咲羅はと言えば、センターの座を守り続けた。それと並行してソロ活動が忙しくなり、オリジナルのソロ曲をグループで初めて与えられ、歌番組にも1人で出演した。
そして、いつしかソロ活動をするときは、『岩本咲羅』ではなく『sAki』と名乗るようになった。
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