第6話 復活へ3/6 *咲羅*
*咲羅*
話し声がしてふっと意識が浮上する。いつの間にか眠っていたみたい。最近はぐうたら寝てばっかりいたのに。
今日は久しぶりに外出したからかな。
そう思いながら会話に耳を傾けてみると、駿ちゃんがお得意のオタク特有早口トークをしていた。
「樹里ちゃんはよく自分のことを『咲羅の影』って言うけどさ、俺は『光』だと思ってるよ。咲羅の行き先を照らしてる。彼女が歩んで行く花道を。樹里ちゃんと一緒にいると咲羅よく笑うでしょ。あれ見てるとね、凄いほっとする。樹里ちゃんがいるから俺は安心できんの。あ、これ言うと俺がマネージャーとして失格みたいじゃん、にゃは」
「私が光とか……恐れ多いですよ。影の形に寄り添うように、って言葉あるじゃないですか。私たちってまさにソレだなって。影の形に寄り添うようにして育ってきたんです。さくちゃんが光で、私が影で。それでいいんです」
ホント、樹里は自己肯定感が低い。自分のこと陰キャって言うし。陰キャが、Roseの雰囲気を明るくするためにわざとはしゃぎまくったりしない、っての。
思わずため息が出そうになるのを押さえて、寝たふりを続ける。
「私の両親が離婚で揉めてしんどかったときは支えてくれたし、高校でもボッチにならないように、コース違うのに頻繁に教室に来てくれるんですよ」
ちょっと笑って言う。
「本当に感謝しかなくて。私はただこのまま咲羅の隣にいられたらいいなあって思っていたのに、この間曽田プロデューサーから『アイドルにならないか』って言われたんです」
「言われたらしいねえ、ちょいと噂で聞いたでやんすよ。てか、いろんなスタッフから言われてるっしょ?」
「言われてます。なんでですかね」
そりゃ樹里を観てたら誰だってわかるからでしょ。『この子はアイドルに向いてるから』って。
「でも、私はアイドルと距離を置いたオタクでありたいんです」
何度も現場に着いて来てくれているのになにを言っているんだろう。
「それに」
私は樹里がいないと生きていけないのに。
「こんな生半可な気持ちでなれません」
その後の車内は誰も口を開かなかった。駿ちゃんはどんな言葉をかければいいのかわからなかったんだと思う。アイドルをやっていたからこそ、アイドルがお遊びじゃないってことを一番よく理解している。
でも、私は樹里と一緒にいたい。もし彼女がアイドルになってくれるのなら、もっと一緒にいられる時間が増える。それに、樹里はフィオもRoseも、全員分の振り付けと立ち位置を記憶している。
メンバーだって、全員分なんて覚えてないよ。みんな自分のパフォーマンスで手一杯だもん。
だから樹里の記憶力ってある意味異常だけど、これって才能だよね。
神様からのギフトを放置したままにはしておけない。
もう
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