第9話 最後

 とうとう自分が飛ぶ番になった。

 ここから落ちたら本当に死ぬんだろうな。

 実際、飛び降りる感覚がどんなものなのかを体験したいと思ったから私はここに来た。ここで飛び降りなければ意味がない。あと、時間とお金の無駄が半端ない……。飛ばなければ、いつも通りに家にいた方がマシだ。

 とか思いつつ、インストラクターのお兄さんが私の身体に命綱を付けていく。いろんな説明をされるが何故だか情報が追いつかない。でも、落ちてから無事に回収されなければならないし、ひとりでの作業なので必死に聞いて頭に入れようと努力した。

 いろいろ装着された身体はとても動きにくい。本当はスタスタと歩きたいが真下のことを考えると歩けない。でも、これ以上ゆっくり歩くと飛べる自信がなくなる。だから、私の今できる最大スピードで飛び降り台に向かう。

 少しずつ、スタート位置に立つ。歩くスピードがゆっくり過ぎたのか、気づいたら恐怖が隣に立っている。

 いよいよ、いよいよと思う度、さらに怖くなる。後悔ともう引き返せない思いが交互に脳内でぐるぐるしている。頭の整理もできず、周りが私を逃がさないようにカウントダウンが始まる。強制的なカウントダウンを一緒に数えたかどうかも分からないけど、耳から聞こえるカウントが0になったので飛び降りた。

 落ちたのに身体が宙に浮いていた。何が起こってるか分からないと思ったのも一瞬で、猛スピードで身体が落ちていく。脳内の整理が追いつかないが冷静な自分が落ちていることを知らせ、そのせいで恐怖を思い出し気づけば声を出して叫んでいた。

 うわぁ、死ぬと思ったらガクッと重力を感じ、再び身体が宙に浮いた。顔をあげることができ、少しだけ景色が見えた。綺麗な風景だった。 そして、また落ちた。このバウンドのお陰で絶景と噂の景色を少しだけ見ることができた。

 バウンドが落ち着き、引き上げてもうための作業とOKサインを出すことができた。自分では作業してる感覚はなく、自分が自分ではないような他人が自分のために作業してくれたようだった。

 引き上げが始まった。引き上げられながら私は生きているような死んでいるような感覚なのか分からなかった。死んではないから生きていることには変わりない。けど、もしバンジージャンプではなく何もつけず飛び降りた場合、1回で終わっていたんだろうな。そのまま地面の1部になっていた。それはそれでいいと思うけど、あの景色は見れない。

 ただ今回は予行練習に来たのが目的だ。何万円も何時間もかけて予行練習に来た。

 帰りは何か食べて帰ろう。何かを食べようと思うのもも食べることが楽しみなのもなんだか久しぶりの感覚だ。

 そういえば帰り道から少しずれたところに道の駅があったはず。そこなら何かしらあるだろう。なんて思いながらゆっくり引き上げられていく。飛び降りたあとの景色は、バウンド中に一瞬みた景色よりかは劣るけども、飛び降りる前よりも綺麗なような気がした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛ぶ @hiesho-samui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ