第2話「一斉蜂起」

――前回のあらすじ


外交的圧力で複数の国家を併合し、工業力と軍事力を大幅に増加させたナチス・ドイツは、1939年に旧領奪還を建前として、ポーランドへ侵攻した。


 度重なるナチス・ドイツの暴力に、痺れを切らした英仏がポーランド側で参戦。

 そして枢軸国側としてスペインとイタリアも参戦し、戦火は忽ちヨーロッパ全域に広がった。

 連合国の裏外交により、フランス軍は永世中立国ベルギーを味方につけて、突如ライン川に軍を推し進めた。

 しかし、アルデンヌの奇跡によりフランス軍の主力は逆に包囲され、その後わずか1週間でドイツはパリを占領、そのままフランスは降伏した。

 短期決戦を想定していたナチス・ドイツだが、イギリスが徹底抗戦を表明したことで、再び地獄の戦争へと変貌する。

 フランスはドイツ・イタリア・スペインで分割し、地図から完全に消滅した。

 残るヨーロッパ大陸も瞬く間に併合され、枢軸三国による絶対的な勢力圏が確立された。

 

 その一方で、2つの戦略目標の確保に失敗してしまう。

 まず1つ目は北アフリカ戦線、勇ましく戦ったスペイン軍とイタリア軍だが、英国海軍の熾烈な攻撃と、複数回に渡る上陸作戦により、戦線が崩壊し、北アフリカ撤退を決定。

 もう1つは北欧戦線のことであり、連合軍の巧みな連携から海に叩き落とされ、ノルウェー侵攻は完全に失敗した。


 このように、海を挟んだ戦略は難航を極めたが、イギリスへの兵糧攻めは絶大な戦果を上げていた。

 スパイ情報に基づいて初期は大西洋沿岸、中盤からは南アフリカ沿岸にて、ドイツの最新鋭潜水艦50隻が通商破壊に努め、イギリスの輸送船生産量を大きく上回る損害を開戦以来ずっと与え続けた。

 その結果、イギリスは必要物資、特に石油の輸入に大きく苦戦し、英国から講和が打診されるのも時間の問題である。

 

 しかし、ヒトラーはソ連侵攻を決定。

 独ソ不可侵条約でやっと守られた背後を、自ら危険に晒すことになってしまったのだ…


 ――総統大本営


 田辺「本当にソ連に侵攻するのですか?戦争に勝つために敵国を増やすのは得策とは思えません」


ドイツ最高指導者 アドルフ・ヒトラー「それについては何度も話したはずだ。我々はすぐに人口問題に直面する」


田辺「食糧危機ですか」


ヒトラー「その上でウクライナの穀倉地帯が必要なのだ。相手はあのソ連だ。腐った納屋に恐れることは無い」


田辺「…わかりました。シュペーア、軍需の方はどうなっている?」


軍需大臣 アルベルト・シュペーア「我がドイツで特に深刻なのは資源問題です。鋼鉄やアルミなどは自給できていますが、石油の輸入は9割以上ソ連に頼っていることから、ソ連侵攻により大幅な資源不足が見込まれます。そしてゴム資源は連合軍が掌握しているため、そもそも開戦以来輸入が不可能な状態でした」


田辺「石油とゴムが最重要課題って訳だな」


シュペーア「まずゴム問題ですが、ドイツの科学力によって解説済みです。国土の21か所に合成ゴム精製工場群を建設し、軍需の2倍以上の生産を誇ることで、スペインやイタリアに輸出する余裕があるほどです」


田辺「実に素晴らしい!航空機生産が滞ることは無さそうだな」


シュペーア「しかし、石油については問題が残ります。人造石油の開発の成功により、ある程度自給は出来ているのは事実です。しかし、それに近隣諸国からの僅かな輸入に加えても石油需要の半分程度しか満たせていません。その事から生産ではなくて、備蓄の方針で進めています。具体的にはソ連侵攻後もアメリカやベネズエラから大量に輸入し、1941年末には35万トンの備蓄が完了します。これなら1500万両の戦車を、同時に動かしても1年間は枯渇することはなく、節約して使えば1944年頃まで空軍運用が可能でしょう」


田辺「タイムリミットはその辺りということか。肝心の兵器生産はどうなっている?」


シュペーア「中戦車は12000両、18個機甲師団を保有しています。またパンター戦車の量産も成功しており、既に3000両以上が配備されています。そして工業量の30%を戦車生産に注いでいることから、月産500両を実現しています。その一方で航空機生産は控えめで、月産150機、計3000機程度です」


田辺「ソ連はまともに航空機を生産していないようだからそれくらいで十分だろう。では具体的な軍事戦略の話に入る。マンシュタイン、頼んだ」


歩兵大将 エーリッヒ・フォン・マンシュタイン「まずソ連を屈服させるには、主要な工業地帯を全て抑えることが必要です。つまり我々が最終的に辿り着くべきは、アルハンゲリスクとアストラハンをつないだ通称A・Aライン。ここまで押し進めない限り独ソ戦での勝利はありえません。そして、これを実現するための具体的な戦略目標は3つです。まず一つはレニングラード、ソ連の主要工業地帯でありながら、フィンランドの解放拠点にもなり得る最重要拠点です。バルト海の安全確保にも繋がるでしょう。二つ目はモスクワ、ソ連の首都であり、最大の工業地帯が広がります。要はソビエト連邦の心臓です。ここを抑えることでソ連の抵抗心を大きく削げるでしょう。最後はバクー油田、年間100万トン以上を算出する油田は、現在の我々が最も求める存在です。石油備蓄の枯渇までに、何としてでも占領しなければなりません」


田辺「では、どう軍を進めるかだが。現状、独ソ国境には1個師団もソ連軍が見えない。我々を挑発しない意図もあるだろうが、後方に防衛陣地を築き上げてるに違いない」


マンシュタイン「恐らくその考え方で間違ってはいません。そこで問題になるのは、『どこで防衛をしているのか』という点です。ソ連にはいくつもの大河が流れており、地形防衛にも優れています。その中で最も領土損失が少ないのは、ドニエプルラインでしょう。そしてここを如何に突破するかが最初の難所になります。可能な手立てとしては、戦車の集中運用で強引に突破するしかありません」


グデーリアン「あまり良い戦術ではありませんな、戦車の消耗が激しすぎる。加えて河川を挟んだ戦闘は装甲化された師団には不利だ」


田辺「しかしそれしか策がないのも事実だ…それでいこう。総員持ち場に着いてくれ」


――1941年12月8日


田辺「総統閣下、日本がアメリカに宣戦布告しました」


ヒトラー「我々の軍事同盟に基づいて直ぐに参戦すべきだ」


同月にドイツもアメリカに合わせてアメリカに宣戦布告。

 1国で世界を相手にできる巨人を敵側に回してしまったのだ。


 

「D班は東部を頼む」「そうだ、そいつは右に設置してくれ」

「全革命軍、準備が整いました」

「……わかった。作戦開始だ」


「田辺殿!緊急事態です!」


田辺「どうした?」


「バルカン半島にて通信施設が一斉に爆破、連絡網が遮断されたところでチトー率いる革命軍が一斉蜂起しました!」


田辺「これは…まずい!まずすぎる!イタリアの統治政策がうまくいっていないことを利用して秘密裏に装備や人員を手配していたのか…!くそ!今すぐ装甲師団を南部に回せ!」


ジリリ…ガチャッ


グデーリアン「もしもしグデーリアンだが」


田辺「すまないが用事は後に回してくれないか!」


グデーリアン「第1装甲軍がドニエプルライン突破に成功した」


田辺「よりによってこのタイミングか…!」


 一旦落ち着いて状況整理だ。

 バルカン半島に戦線が発生、つまり突然二正面になったのが現状だ。我々が今話し合うべきなのは、どれだけバルカンにリソースを割けるかだ。

 本音を言えば戦車を南部に送りたい。

 しかし先程受けた連絡によればスペインとイタリアが全面的にバルカン戦線の援助に回るとのこと。

 …彼らの力を信じる。

 

 東部戦線から歩兵60万人、上陸対策用自動車化歩兵10万人、そして訓練中の新兵24万人の約100万人をバルカン半島に送る。

 そして第1装甲軍は南部に配備しない!

 残る東部戦線170万人の歩兵と共にモスクワに向かう!

 第一次ドニエプル攻勢で散った戦友100万人によって築き上げられた突破口だ!


 この機会を絶対に!絶対に無駄にしてはならない!


 

「緊急連絡です。我が軍の沿岸防衛が崩壊、最低でも10万人以上複数箇所で報告。ノルマンディーに上陸されました」


 次回、最終回

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異世界戦線 アンチテーゼ @k2g35

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