異世界戦線
アンチテーゼ
第1話「第二次世界大戦」
第一次世界大戦後のドイツはまさに絶望であった……。
多額な賠償と領土の損失、そして襲いかかる世界恐慌。
ドイツはどこで道を間違えたのだろう?
答えは明白である。『戦争に負けたから』だ。
第一次世界大戦の屈辱的な敗北のせいである。
我がドイツには最高の技術がある。我々には屈強な精神がある。
そして我々には勝つ力がある。
古い地図を書き換える時が来たのだ――
僕の名前は田辺裕也、しがない歴史好きだ。
睡眠欲、食欲、性欲、歴史欲と4大欲求に食い込むほど大好きなのだ。
しかし僕にはまだ足らない物がある。
知識はあるが、妄想ができない事だ。あの状況で枢軸は勝てたのか?もし、日本人に優秀な将校がいたら、もしイタリアに勇気があれば、もしナチスに理性があれば…。
これは、第二次世界大戦を知り尽くした男が、ドイツを勝利に導く話である。
ドイツ最高指導者 アドルフ・ヒトラー「全員集まったか」
ドイツ陸軍参謀総長 ルートヴィヒ・ベック「私は強く反対します。これ以上の英仏への挑発は戦争を誘発しかねません、そんな現状で時期をさらに早めるというのですか!?」
ヒトラー「彼にも訳があるのだろう」
田辺「ラインラント進駐への反応をご覧になったのでしょう。イギリス、特にフランスは血を流す気がまるでありません。人類史で類を見ない弱腰外交です。オーストリア、ズデーテン、そしてチェコスロバキアを併合しましょう――1937年6月までに」
ベック「時期が早すぎる。もっと慎重に行うべきだ!」
グデーリアン「田辺参謀本部作戦局長の発言をまとめると、急速な拡大をしても英仏は攻めてこないという賭けをするってわけだな」
田辺「率直にいえばそうなります」
グデーリアン「その賭けをするかどうかに関してはとやかく言わないが、装甲軍団を含めて今のドイツ軍はフランスにかなり劣っている。もし攻めてこられるようなことがあれば、敗北の可能性すらあり得るぞ」
田辺「ご安心ください。この賭けは100%勝つと確信しております」
ヒトラー「相当自信があるようだな。田辺の意見を採用する」
ベック「総統閣下!私はこんな責任を背負いきれません。私はこの仕事から降ります」
ベックは会議の部屋から去ってしまう。
ヒトラー「ちょうど枠が空いたな。田辺、お前は参謀総長に昇格だ」
田辺「責任をもって任務を遂行いたします」
その後、田辺の賭けは成功した。
予定より2年早い領土拡大、いずれの地域にも軍事的圧力を加え、強制的に併合したにも関わらず、フランスは総動員法を拒否し、イギリスに関しては戦争を回避したことを喜んですらいた。
田辺は心の中でガッツポーズを決めた。しかしこれは勝利ではない、準備だ。
次の作戦、『第二次世界大戦』に移行する。
我々は正当なドイツ領、ダンツィヒの割譲とポーランド回廊の通行権を8月23日に要求する。
しかし、高確率でポーランドはこれを拒絶、その場合は我々に進行する義務が生まれる。
ポーランドは英仏と同盟関係であることから、連合国との戦争は避けられないだろう。
だから我々は不測の事態に備え、如何なる場合にも勝利する戦略を保有すべきなのだ。
ここまでが前置きだ。
次に具体的な戦略状況と作戦の説明となる。
連合国の主な国家は先程述べた通り、イギリス、フランス、そしてポーランドだ。
一方で枢軸国はドイツ、イタリア、最後にスペイン、大日本帝国は現状、参戦の見込みはない。
またスペインはポルトガル奪還を終えて、1ヶ月しか経過してないことから、参戦準備に時間を要するとの連絡を受けた。
つまり枢軸は独伊の二カ国であり、見事に連合国に挟まれているのが現状だ。
そして現在の軍事バランスはこうなっている。
英仏は双方80万人規模の軍を保有、ポーランド軍40万と合わされば、総数200万人を超える。
一方で我らドイツ軍は主力歩兵師団を150万人、湾岸防衛20万人、装甲師団10万人を持つ。
それに加えて、イタリア軍は150万人規模だ。
つまりこちらの総数は300万人近くであり、平地ならまず負けることは無いだろう。
しかし、知っての通りフランスは1つの人口要塞、そしてもう1つの自然要塞に囲まれている。
まず人口要塞はマジノ線だ。10年間の国家予算を浪費して作られたその要塞は、敵国ながらその出来を賞賛せざるを得ない。
口径が10cmを超える主砲が15km間隔で、108個配置されている。そしてコンクリートの厚さは350cmを超え、ミリではない。センチメートルだ。弾薬は全て地下数十メートルに保管され、世界最高の爆弾を持ってきたとしても、この要塞の爆破など到底不可能だろう。
これが450kmの長さで続いているのである。
あまりの長さから要塞内に列車すら走っている有様だ。結論を述べるならここの突破など論外である。
そして、自然要塞は仏伊国境のアルプス山脈だ。
ムッソリーニは即時参戦を約束してくれているが、4000m級の山岳を超えるには、大きな犠牲と莫大な時間をかけなければならない。
つまりフランス南部からの侵攻も厳しい。
そこで我々が採る選択は、北部の中立国からの侵攻だ。
要塞などは周り込めばただのハリボテ、そんな簡単な事実をフランスに突きつけてやるのだ。
しかし、歩兵のように足が遅ければ、すぐに対応されてしまう。
そこで我ら、ドイツ装甲師団の出番だ。
多くがIII号戦車、一部に限り二ヶ月前に完成したIV号戦車を配備、6個装甲師団は時速10kmという、歩兵の2倍以上の速さで全てを薙ぎ払い進んでいく。
そして真っ先にパリを目指すのだ。
パリが陥落すれば自然とフランスは降伏し、英国も講和に動き始めるだろう。
最後に管轄の話だが、A軍集団をマンシュタイン、B軍集団をシュトゥデント、そして第1装甲軍をグデーリアンに任せる。
説明は以上だ。我々が戦争をするからには勝たねばならない!
連合国を海に叩き落としてやれ!
――モスクワ
ソビエト連邦外務人民委員 ヴァチェスラフ・モロトフ「独ソ不可侵条約には賛成だ。しかし、戦争には反対だ!」
――総統大本営 某所
ヒトラー「諸君、これからの戦争はどう進むと思う?答えるのは誰でもいい」
田辺「参謀総長の立場から申し上げますと、Uボートによる通商破壊は順調に進んでいます。スパイ情報では英国の輸送船がゼロになった時すらあるそうです。他の大国が英国へ輸送船を貸し付けているようですが、それも長くは持ちません。島国国家ですので干上がるのは時間の問題かと。最短で5年ほどで降伏するでしょう」
ヒトラー「他に勝つ方法があるのではないか?」
田辺「ジリ貧以外にですか?」
ヒトラー「率直に言おう、我々はソ連に攻め込む」
田辺「えっ?」
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