その後はやっぱり忙しい
刀剣の世界、それは固有結界のようなものだった。
相棒の力を増幅させることで別の空間を作り出し、その中では全てが俺と相棒の思い通りに動く――俺としてもこんな力が発現したのは予想外だが、数多のアニメや漫画で強者の証とされた固有結界を使える……こんなんテンション上がるって。
「……ゆる……せない……あなたは……絶対に……」
「おう。何なら何度だって来いよ――その度にこうして倒してやる」
「……あなたは……絶対に……絶対に……」
「あ~はいはい。分かったから諦めてくれ――今だから分かる。俺は絶対に負けねえよ何があってもな」
全身を刀で貫かれ、痛々しい姿の天使は消え去った。
特に何か反撃をされたわけでも、おかしな状況に発展することもなく……ふぅっとホッと息を吐いた相棒の様子から俺は全てが終わったことを察した。
「瀬奈君!」
「おっと」
ドンと、強く音を立てるように背後から刹那が抱き着いてきた。
彼女は俺の背中に額を押し付けるようにして動かなくなり、俺はしばらく刹那の好きにさせるのだが……そんな俺たちの元に彼女が――刹那を救ってくれたあの天使が近付いた。
「ありがとな。まさか来てくれるとは思わなかった」
「そうね。もう会うことはないって言ってたのに」
「そのつもりだった。でもいきなりあなたの存在が消えたから……流石に気になってしまう」
もう会うことはないと、天使は俺たちの前から姿を消した。
だというのに存在を奪われた俺を心配をしてくれたらしく、こうして彼女は俺たちの元に再びやってきた。
「アレは私と同質に近い存在だったからこうして協力できた……うん。中々悪くなかったよあなたたちに手を貸すのは」
「そうか?」
「うん。私はあなたたちを気に入っているから……だから私はあなたたちの方を助けたいと思った」
それは嬉しいことだなと、改めて俺と刹那は天使に礼を言うのだった。
ただやっぱりこうしてここに居るのは天使にとって難しいことらしく、段々とその体が透けていき、俺たちのこの再会もあっという間に終わることを意味している。
「もう行くの?」
「言ったでしょ? 普通ではあり得ないこと……私にとっても残念だけど、今度はこう言わせてもらうね。また機会があったら会いに来るよ」
そう言って天使の体は完全に消えた。
助けてもらったにしては呆気なく消えた天使に言いたいことはある……でも、既にお礼は言っているのでこれ以上は諦めるか。
「……うん?」
既に相棒の結界も消えて俺たちの姿は現実世界に戻っている。
戦いの終わりに示し合わせたかのようにスマホが震え、誰かからか電話が掛かってきたのを俺に知らせた。
「雪……?」
電話を掛けてきたのは雪だったので、俺はすぐに通話を開始する……すると、向こうから聞こえてきたのは思いっきり泣いてしまっている雪の声だった。
『兄さん……私……私ぃ!!』
雪が傍に居たならすぐにでも抱きしめてやりたいほどに、彼女の悲痛な声に心が痛んだが……それでもこれは雪が俺のことを分かる証だった。
刹那も相棒も空気を読むように一切言葉を挟むことはなく、俺はしばらく雪との通話で時間を潰すことに。
『ずっとおかしかったの……でもさっき、兄さんのことが分かるようになって……私どうしちゃったの……? 兄さんに誰って言っちゃった……うぅ……っ!!』
俺のことが分からなかった時、そしてさっきの電話の記憶も完全に残っているようでそれがより一層雪の心を暗くしているようだ。
雪は俺のことを大切な兄だと考えてくれている……だがその気持ちが無くなり、俺のことを他人だと考えたことが雪にとって最悪な記憶となっているんだろう。
「大丈夫だ雪。俺の油断が招いたことだしな……でも、それもさっき速攻で終わらせたよ――雪が電話してきてくれたからな」
シスコンパワーと言うと少しダサいけど、さっきの俺は間違いなく雪の言葉にブーストされていた……新しいスキルが目覚めたのも、不意打ちのやり返しと言わんばかりに理想的な動きが出来たのも全部雪の言葉のおかげだった。
「だから泣くな雪。もしも……そうだなぁ……泣くんだとしたらこっちに旅行に来た時にしてくれ。それならいくらでも慰められる」
『うん……うん!』
何度も言うがすぐにそっちに行きたい気持ちは変わらないけどね。
それからしばらく話をしたら雪も落ち着き、刹那にも声を掛けてもらうことで更に安心させることに成功した。
『愛い妹よの。私も彼女がこっちに来たら顔を合わせたいものだ』
『良いんじゃないか? 雪ならきっとすぐに受け入れてくれるだろうさ』
むしろ俺の力の根源でもあるので逆にお礼とか言いそうだな……ある意味で、相棒が居たから雪の治療が出来たわけでもあるし。
「それじゃあね雪ちゃん」
「またな雪」
『うん! またね兄さん! 刹那さん!』
通話が終わり、刹那からスマホを受け取ってポケットに仕舞った。
さっきまで戦いの場だったとは思えないほどに、この公園は静寂に包まれている。
「……人間ってさ」
「どうしたの?」
「……大切な存在のためなら、どこまでも強くなるんだなって実感した」
「ふふっ、そうね。さっきの瀬奈君は本当に凄かったもの。一瞬の出来事だったけれど、戦いというのを忘れて見惚れてしまいそうになるほどに見事な一撃だったから」
似た武器を使う刹那からそう言われると嬉しくなるよ。
それから俺は刹那と手を繋ぎながらマンションに戻る……のだが、立て続けに友人を含め覚馬さんや鏡花さんから電話が掛かってきたのは言うまでもない。
順番に事情を簡単に説明しつつ、もう少しだけ今日という日は終わりそうにない。
「……なあ刹那」
「なあに?」
「いっそのこと、更に上へ……俺たち二人でもっと上を目指すのも面白いかもな」
なんて、そんなことを俺は口走った。
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