終わりへの片道切符
時に人は唖然としてしまうことがある……まあ、俺にとっては探索者として多くのことを経験したからこそ、そんな機会は多くあった……のだが、それでも今この胸に訪れた衝撃はそのどれよりも凄まじかったのだ。
「……どうなのよ」
「……………」
目の前に……女神が降臨していた。
真っ赤な衣装のサンタ服……ミニスカで太ももが眩しい部分を除けば、大よそメジャーなサンタのコスプレと言えるだろう。
(……やっぱり良いなぁ)
あまりにも見惚れてしまい、本来であれば実際に言葉として伝えた方が良いものを内心でのみ呟いてしまった。
ただ彼女が出来て付き合うだけでなく、このような姿を目の前で披露してくれるなんて俺ってばどれだけ幸せ者なんだろうか。
「……瀬奈君が感動しているわ」
そりゃするともさ。
俺は彼女と知り合えたことの幸せを改めて噛み締めつつ、感動に打ち震えながらも今度こそはしっかりとサンタ服の感想を口にした。
「以前に見たことはごめんだけど、改めて見て凄いと思った。マジで可愛いし、冗談抜きで女神が降り立ったんじゃないかって思ったほどだ」
「そ、そんなになの?」
「あぁ……それこそ、今すぐに抱きしめたいくらいに」
そう言った途端、刹那は腕を広げた。
「そう言うくらいなら好きなだけ抱きしめなさいよ……ほら」
「……刹那ぁ!!」
立ち上がって思いっきり抱きしめたのだが、勢いが強すぎてそのまま彼女を背後にあったベッドに押し倒す形になった。
可愛い悲鳴を上げて倒れた刹那の状態を一瞬にして観察し、どこも痛めていないことを確認してからその豊かな胸元に顔を埋める。
「……ふふっ、甘えん坊なんだから本当に」
「これは甘えん坊というか……こうせざるを得ないっていうか」
最近、相棒の件があってから刹那とそういうことはしていなかった。
お互いに飽きたとかそういうことはなく、単純にただ一緒に居ることに満足していたからこそその必要がなかっただけに過ぎない。
抱きしめていると分かる――段々と彼女の体が熱くなっていき、息遣いもどこか激しくなっていき……最後に瞳を潤ませるのは彼女からのサインだ。
「刹那、キスしても良いか?」
「もちろん」
胸元から顔を上げ、刹那に顔に近付き唇にキスを落とす。
このような状況で触れるだけのキスで終わるわけがなく、刹那の方から俺の唇を割るように舌を入れてきた。
お互いの唾液を交換するように、一心不乱に深いキスを交わした後……俺は彼女の服に手を掛けた。
「……瀬奈君♪」
そしてある程度の時間が経った後、刹那はギュッと俺に抱き着いていた。
冬ではあるが部屋の中は温かく、裸で居ても何も問題はない……刹那は俺の上に跨るようにして、体全部を押し付けながら満足したように笑みを浮かべている。
「もう少し……このままで良いわよね?」
「あぁ」
裸での添い寝は恥ずかしい? なんて思ったのは随分前だが、今になると少しだけクセになる気持ち良さがある。
服越しではなく彼女のスベスベの肌が直接触れ合っている……それだけなのにとても気持ちが良くて心地良いんだ。
「高校生にしてはとても贅沢な日々を送ってるよなぁ……それもこれも、探索者であるのと刹那と出会ったおかげかな」
「あら、私だって同じよ――探索者として過ごしてて良かったわ。あなたに、瀬奈君に会えたんだもの」
どんなに愛し合っても、どんなに体を重ねても、結局はお互いが大好きなんだと言葉にする場所に行き着く。
どれだけ言葉を交わしても飽きはせず、逆にどんどん伝えたい言葉が口から出て行くのだ……あぁ、それだけで本当に幸せだなと俺は笑った。
「刹那、しばらくしたら服を着ような?」
「えぇ分かってるわ。風邪なんか引いてしまったら色々と予定が狂ってしまうし、それは絶対に嫌だから」
それは俺も同じだよと苦笑する。
それからしばらくは裸のまま抱き合った後、俺たちは互いに服を着てから寝る準備を始めた。
最後にトイレを済まそうと思った時、俺は何故かリビングの窓へと吸い寄せられ、まだ明かりの多い街並みを上から見下ろす。
「……綺麗だな」
それなりに高い階層に住んでいるからこその景色だ。
この景色を刹那と眺めることはそれなりに多いが……今度、雪と母さんが来た時にも同じ景色を見せたいなと、そんな些細な願いを抱いたその時――切羽詰まったような相棒の声が響き渡った。
『ご主人!! 声に耳を傾けるな!!』
「……永遠?」
何を言ってる……?
強く脳に響いた相棒の声に俺が首を傾げると、チリンと鈴の音が響いた――俺は反射的にその音が聞こえた方へ顔を向ける。
「……は?」
そこに居たのは不思議な姿をした何かだった。
人間ではない何か……翼を生やした何者かが窓の向こうに、何もない空中にまるで床があるかのように立ち竦んでいた。
そいつはスッと顔を上げ、口角を上げたのだ。
「見つけた」
「っ!?」
すぐ隣から声が聞こえ、同時に相棒の悲鳴にも似た声もまた聞こえた。
『逃げろご主人!!』
その声が聞こえた時、俺は背中を床に叩きつけるようにして倒れていた……段々ととてつもないほどの眠気に襲われ、ついに俺は意識を闇の底に沈めるのだった。
【あとがき】
近いうちに終わりますたぶん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます