クリスマスはまず友達とのんびりしようぜ
12月24日、クリスマスイブの日だ。
別に日本特有の記念日というわけではないが、こういう日くらいは休みであってくれと願う人は居るんじゃないかな?
まあでも、今日は残念ながら登校日だ。
「それで? 今日は恋人同士の夜ってか?」
「そんなの当たり前でしょ。ね、刹那ちゃん?」
「そうね。うふふっ♪」
既に授業が終わり、終礼も終わったところだ。
今日は夜に刹那との時間を設けているのは当然として、放課後はいつもの面子で集まって遊ぶ約束をしている。
『恋人同士のクリスマスイブ……憧れはあったけれど、やっぱり友達と過ごすのも大事なことだものね♪』
そう言いだしたのは刹那からで、俺もそれに頷いた。
刹那と一緒に過ごす時間は遅くから……それが少ししかないってのは別に残念には思わなかったし、俺もやっぱり彼らと過ごしたい気持ちってのはあったんだ。
刹那の笑顔に女性陣が盛り上がる中、真一と芳樹の揶揄いから逃げるように俺は立ち上がった。
「とにかくとっとと行くぞ」
「あいよ~」
「行こうぜ~」
クスクスと楽しそうに刹那を含め、沙希と夢も笑っていた。
知り合いしか居ない空間ならともかく、いまだに刹那に対して淡い想いを抱きまくっている連中の多い場所でそういう話をするからだろうが……まあ、何人か睨んでくる奴には思いっきり睨み返してやったけどさ。
その後、俺たちは揃って学校を出た。
軽く女性陣のショッピングに付き合い、定番となったカラオケなんかにも行って時間を潰し、クリスマスの装飾で彩られたファミレスで夕飯を楽しむ。
「俺さぁ」
「うん」
「彼女……欲しいなぁ」
突然に真一が神妙な様子でそう言ったことで、俺を含め全員が動きを止めた。
いつもなら軽く流すか、或いはいきなりどうしたんだよと笑ってしまうようなことだったのに、こんな様子で言われてしまうと気になってしまう。
「いきなりどうしたの?」
「な、何か悩みでもあるの?」
沙希と夢が本当に心配そうに顔を寄せていた。
ちなみにあんな風に距離を近くして心配しているが、二人は真一に好意を抱いてはいるがLOVEではないのでそういうことは考えられず、真一も単純に彼女たちの優しさに感謝するようにこう言った。
「瀬奈と皇さんを見てたらそう思うようになったんだよ……くぅ、勝ち組羨ましいリア充爆発しろ!」
「……はぁ」
「ど、どうでも良いことだったね」
そんなことだろうと思ったよ、俺がため息を吐くと隣に座る芳樹が笑った。
「ま、あんな風に嫉妬する気持ちも分かってやれよ。それくらい瀬奈のことが羨ましいってことだ」
「……………」
まあでも分からないこともなかった。
俺自身のことではあっても、自分のことを客観的に考えたら確かに嫉妬というか羨ましいとは思うだろうから。
そんなことを考えると自然と視線は刹那に向く。
「どうしたのかしら?」
すると、目が合った途端に刹那は柔らかく微笑んだ。
何でもないとその場では首を振ったものの、きっと俺の考えなんて丸分かりなんだろうなと少し苦笑する。
「なあ芳樹、俺たちも彼女作れるように頑張ろうぜ」
「そうだなぁ」
「真一と芳樹も結構優良物件だと思うけど」
「そ、そうだね。探索者として凄く稼いでるし」
探索者ってだけで将来は明るいので、以前みたいに裏のあるお姉さまみたいな人たちに騙されなければ全然大丈夫とは思う。
真一と芳樹は性格も良しだし探索者としての実力も信用に足るものだし、沙希が言ったように本当に優良物件だぞマジで。
「探索者としてだけでなく、こうして一緒に居て楽しい人たちだもの。きっと良い出会いがあるわよ二人とも。もちろんあなたたちもね」
「ほ、本当かなぁ?」
「恋人……ちょっと考えられないかも」
面と向かって楽しいと言われた真一と芳樹は照れ臭そうに下を向き、沙希と夢に至っては少し想像が出来なさそうだった。
とはいえこの話はここで終わり、後は周りの騒がしさに馴染むように飯を食う。
こうしてクリスマスの夜を過ごしているのは俺たちだけではないため、同じように騒いでいる連中はかなり多い……というか、ちょっとうるさすぎる集団もあった。
「それでさぁ! あの時はさぁ!」
「そうそう! あったあった!!」
男女それぞれ5人ずつくらいか? 俺たちよりも年上だと思われる集団がとにかくうるさかった。
まあファミレスという場所なので少しばかりの騒がしさは許容するべきかもしれないけれど、チラッと見たら態度も悪いし……二度目になるがとにかくうるさくて周りのお客さんも迷惑そうにしている。
「……?」
そんな中、一人の男の子が近付いていった。
俺には全く関係のない光景だってのに、それでも目を離すことは出来ない。
「ちょっとうるさいよ! 静かにして!」
「こらっ!」
勇気ある子どもだな……なんて思っていると、お母さんと思われる女性がすぐに男の子の手を引きに駆け寄った。
男の子の言葉に集団は一気に静かになったものの、やはり機嫌良く話をしていた時に水を差されたのは気に入らなかったようだ――チャラい男が席を立ち、ずかずかと不穏な空気を携えて親子に向かう。
「やれやれね。ああいうのは本当に困ったものだわ」
「そうだな……って」
俺と刹那が同時に立ち上がったが、真一たちも一緒に腰を上げていた。
考えることは一緒だなと苦笑しつつ、万が一にも暴力が振るわれたりするのを防ごうと思った矢先だった。
「おい、誰の弟とお袋にガン付けてやがる」
そんな威圧感たっぷりの声が響き渡った。
あれ……? その声どこかで……というかあいつじゃね?
「式守君……?」
そう……今の声を出したのは間違いなく式守だったようだ。
立ち上がった式守はこの場の全てを支配するかのような威圧感を放ち、男性の前にスッと立った。
「失せろや」
「っ……」
式守の短い一言に、男は成す術がないかのように席に戻った。
今の式守があまりにも怖かったのか、他の連中もお通夜のように静かになってしまい、迷惑に思っていた人たちの中には小さく拍手をする人も居た。
「兄ちゃん……」
「ったく、ああいうのは俺にも任せときゃ良いんだよ」
「うん……でも、僕も兄ちゃんみたいに強くなりたいもん!」
「お前は十分つええよ。ああやって立ち上がったんだからよ」
あいつ……話には聞いてたけど、中々良い兄ちゃんをやってるじゃないか。
学校では見られないその姿は微笑ましかったが、俺たちが式守と話をするようなことはなく時間は過ぎ、真一たちと別れて帰路に着いた。
「楽しかったわね」
「あぁ」
「……でも瀬奈君。夜はこれからよ!」
「……おう」
夜はこれから……そう、恋人としての夜はこれからが本番だ。
その夜……正にクリスマスを象徴するサンタさんとなって、刹那は俺の前に降臨した。
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