ヒトとはなんぞや

「なんつうか……本当に俺たち子供の出番はなかったな」

「そうね。でも良かったじゃないこうして上手く物事が運んでくれたなら」


 今話している内容、それは以前に魔物が操るスキル云々の騒ぎに関してだ。

 俺と刹那が実際に顔を合わせた実行犯の彼らの背後、そこに何か大きな組織が関わっていることは確かで、組合や警察が動いてはいた。

 その中での進展として、これだと思われる組織が検挙されたのである。


「あんな騒ぎを起こしたからこそ、色々と面倒なことになると思ったんだが……そこはやっぱり探索者って感じだな」

「そうね。父もそうだし、組合のエースたちも参加していたし……ある意味でこうなるのも必然だったのかしら」


 刹那の言葉に俺は頷いた。

 俺も刹那も解決に携わった時点で覚馬さんのやる気は相当なものだったし、もしかしたらこれ以上俺たちに気を割かせないためにと頑張ってくれた……のかな? たぶんきっとそうだろう。

 もちろん覚馬さんだけじゃなく、他の人たちも同様だろうが。


「ま、俺たちは今まで通りに過ごしていて良さそうだ。何かあったらその時に対処出来る力を俺たちは持ってる――己惚れじゃなく、持っている力で」

「そうね……ふふっ、でもしばらくは安心しても良いと思うわ」

「だな……ふぅ」


 この世の中、本当に儘ならないことってのは多い。

 なんだか年寄りみたいなこと考えてるなと一人苦笑していると、一緒に朝食を食べていたはずの刹那が動きを止めていた。

 この空間……いや、この瞬間には心当たりがある。


「ふむ。中々美味だなこの味噌汁とらは」

「おい」


 やっぱり相棒が姿を見せていた。

 別にこうして固有の結界を生み出すようなことをしなくても、刹那も交えて話をすれば良いんだが……まあそこまでのことじゃないって考えなんだろう。

 お椀を置いて相棒――永遠は俺を見つめて口を開いた。


「人間というのは非常に興味深い生き物だ。あなたの中から多くの人間たちを見ていた……もちろんそれ以前からもな」

「ふ~ん?」

「力を持たぬ者と探索者、その違いは確かにあるが同じ人間に変わりはない――だというのに何かが違うから隔たりが生まれ、何かが違うから争いも生まれ……何故同じ目標に向かって一致団結という簡単なことが出来ないのだ?」

「ま、思想の違いってやつだろ。みんながみんな聞き分けの良い人間ならイジメなんてものも発生しない」


 そもそも同じ人間という枠組みの中で争いが起きること自体不毛だ。

 ただ、それを言い出すとキリはないし人間が人間という生き物である以上は絶対に思想の違いがなくなることはないんだろう。


「それはつまり、真に争いがなくなるためには人間そのものが滅ばなければならないということか?」

「だろ? 人間が居なくなれば地球は平和だよ」

「ふむ……」


 なんだ? いきなり哲学的というか、普段は話をしないことをするじゃないか。


「ダンジョンが現れたことで、身近な部分でもそれを目の当たりにすることは増えたが……ある意味、それもまたダンジョンの齎した結果か」

「どうしたんだ?」

「いや、何でもない。それっぽく言ったが別に私は何かを知っているわけでもないからな。期待をしてくれるなよ」

「……ふ~ん?」


 ふ~んばっかり言ってる気がするな。

 でも……確かに相棒の話には少し一理ある……だってそうだろ? 人間が元々争いを続けてきたことは歴史が証明しているし、ダンジョンが現れスキルも発現したことでそれは更に表面化してきた。

 まあ、あまりにも大きい取り返しの付かない事件は……起きかけたけどその程度だが分からないもんなんだよな。


「ではな。私はこれで戻る」


 そう言って相棒はスッと姿を消した。

 最初から何もなかったように彼女が消えたことで、止まっていた時間を動き出す。


「どうしたの?」


 一瞬で俺の状態を見抜き、不思議そうな顔をした彼女に俺は何でもないと首を振った。


(別にフラグを建てるわけじゃないけど、これから先クリスマスが終わったら雪や母さんが来て楽しい時間を送るんだ――マジで神様が居るなら空気を読んでくれ)


 そんなことを思いながら、俺は朝食を完食し刹那と共に家を出た。

 外に出ると一面が白い雪で化粧されており、これぞ冬だって景色が俺たちを出迎えて歓迎してくれる。


「これは中々良いホワイトクリスマスになりそうだな?」

「そうね。今年のクリスマスは……っ」


 そこで刹那が突然に顔を赤くして俺を見つめた。

 クリスマスという単語を口にして照れたということはつまり、例のサンタ服について考えたんだろうか……ぶっちゃけ刹那には悪いけど、俺は物凄く楽しみにしているんだ心から。


「めっちゃ楽しみにしてるから。見ないと年は越せねえ」

「そ、そこまで言わなくても!!」

「それほどなんだよ! 純粋な男子高校生として見たい!」

「……絶対に見せるわよ安心して」

「おう!」


 言質は取ったからな? 絶対だからな!

 なんてちょっとしつこいかなと思いつつも、近々訪れるクリスマスを彼女と一緒に楽しもう。

 俺はそう強く心に誓うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る