彼女は強く美しい

「な、何よアンタたち……っ」


 美人ではあったが少しばかり性格のキツさが露呈したお姉さま方に絡まれていたところ、まるで女神の降臨かのように刹那たちが現れた。

 中央に立つ刹那に関しては威圧感マシマシで腕を組んでおり、心なしか髪の毛が逆立って……は流石になかったか。


「皇さん……それに沙希と夢も」

「……女神かよ」


 女神かと、真一と芳樹も同じことを考えたらしい。

 沙希も夢も見た目は整っている方ではあるが、お姉さま方からしても特に刹那に対する反応は著しかった。

 整った顔立ちだけでなく抜群のスタイルもそうだし、何より彼女の纏う雰囲気があまりにも高潔な身分を思わせるかのような神聖ささえ感じさせる……これは流石にフィルター掛かりまくりかな?


「途中から聞こえていたわ。探索者である彼らに取り入ろうとしたくせに、反応が悪かったら地味と言って見下すのはどうなのかしらね?」

「そうそう、流石にないんじゃないかなぁ?」

「むしろこっちから願い下げって言っても良いくらい」


 刹那と沙希はともかく、あの夢でさえも視線は鋭い。

 ただお姉さま方を睨みつける顔付きではあるものの、言い合いをするようなつもりはないらしくこっちに来てと刹那が視線で訴えかけてきた。

 俺たちは頷き合って彼女たちの元に向かうと、刹那は俺の腕を抱き寄せてチュッと頬にキスをする。


「えっ?」


 唖然としたのはお姉さま方だけでなく真一たちも同様……かと思ったが、女性陣は目をキラキラさせながら見つめてきている。


「まあ、自分の大切な彼氏を悪く言われたら誰だって機嫌は悪くなるわ――あなた方だって自分の彼氏が悪く言われたら……あ、ごめんなさい」


 刹那さん!?

 かあっと顔を真っ赤に染め上げて睨みつけてきたお姉さま方から視線を外し、俺たちはその場からすぐに立ち去った。

 遅い時間だったのもあるのでそのまま流れで俺と刹那は彼らと別れ、その帰り道での刹那はとても気持ち良さそうな表情をしていた。


「ねえ見たあの顔! スカッとしたわ!」

「あはは……まさかあそこまで刹那が言うとは思わなかったよ」

「だってムカついたもの。私からすれば瀬奈君は最高にかっこよくて優しい自慢の彼氏なのよ? 相手が誰であれ私だってムカつくわよ!」


 ムカつくと言った時の顔はさっきの様子を彷彿とさせたものの、やはりあの人たちにハッキリと言えたことでかなりスッキリしたらしい。

 まあでも、刹那が言ったことはその逆も然りだ。

 もしも刹那のことを悪く言う人が居たら手は出ないけどムカつくだろうし、絶対に睨みつけるくらいはしてしまいそうだ。


「でも……友達に聞いたけど意外と引っ掛かるみたいよ?」

「みたいだな。ニュースでも時々見るし」


 基本的に大人の男性が引っ掛かるみたいだが、やはり若い女性には弱いんだろうなというのが良く分かる。

 その点に関してのみ言えば学生の俺たちに声を掛けてきたあの人たちは少々異端ではあるものの、やはりあんな風に思い通りにならなかったら態度を変える姿を見せられると僅かなドキドキさえもすぐに消え去ってしまう。


「……………」

「刹那?」


 マンションが見えてきたところで刹那がどこか不満げな顔をしていた。

 どうしたのかと思ってジッと見つめると、彼女はぷくっと頬を膨らませてこんなことを言った。


「私……瀬奈君のことは全面的に信頼しているわ。瀬奈君は私のことを心から大好きだし、私だって瀬奈君以外の男性に目移りすることなんてあり得ないし……でも、あんな風に瀬奈君が言われて気分悪かった。それ以上に……瀬奈君に対して色目を使うなって嫉妬したの」

「……刹那」

「なに?」

「今日、一緒にお風呂入ろうか」

「っ! 入る!」


 刹那が可愛くてついお風呂に誘ってしまった。

 まあ彼女と一緒に入浴することは珍しくはないものの、最近はそこまでしなかったのである意味久しぶりと言えるのかもしれない。


「もう冬だし体は冷やさないようにしないとな」

「そ、そうね……気を付けるわ」


 それから一気に機嫌の良くなった刹那を連れてマンションに帰るのだった。

 約束通り一緒にお風呂に入り、夕飯はあっさりしたものを食べたいという二人の意見が一致して湯豆腐だ。


「なあ刹那」

「なあに?」

「なんで湯豆腐ってあっさりしてるのにこんなに満足感あるんだろうな」

「そうねぇ……作るのも簡単だし、本当に美味しくて素晴らしいわ」


 湯豆腐と言っても豆腐だけではなく、他にも鶏肉など少し入れているが……それも本当に美味しくて良い。


(まあそれ以上に……刹那と一つの鍋を囲んでいるのが良いんだよなぁ)


 以前にもこんなことを考えた気がするけど、やっぱり大好きな人との食事はどんな形であれ楽しくて幸せなものだ。

 それから夕飯を終えて一緒に食器の片づけなどをする中、また思い出したのか刹那はあのお姉さま方の発言に対してプンプンと怒って……俺はそれを落ち着かせるようにギュッと抱きしめて大人しくさせるのだった。


「私、こうされると弱いわ」

「良いじゃないか。ま、俺も同じだけどさ」

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