クリスマス目前

「いやしかし、こうやってお前とダンジョンに来るのは久しい気がするぜ」

「本当にな。でも良かったのか……? その、Sランクの瀬奈には退屈をさせてるかもしれないけど」

「そんなことはないさ。弓の練度を更に上げるのもそうだけど、何より親友の二人とダンジョンに来るのは楽しいからさ」


 いよいよクリスマスがやってくるといった頃合いだ。

 そんな特別な日を前にして俺は今、こうして放課後を真一と芳樹の三人でダンジョンで過ごしており、これには一つの理由がある。


『どうせクリスマスに刹那ちゃんは瀬奈に独り占めされちゃうでしょ? なら今くらいは私たちにも時間をちょうだいね!』

『う、うん……一緒に遊びたい』

『ふふっ、分かったわ。それじゃあ瀬奈君、今日は彼女たちと過ごすわね』


 という流れがあって、刹那は沙希と夢に連れられる形で遊びに行ったのである。

 そうなってくると俺としては色々と暇になるため、ちょうどその場に居た真一たちに誘われてこうしてダンジョンに来たわけだ。


「でもやっぱり瀬奈が後ろに居てくれるのは安心するぜ」

「ま、大船に乗ったつもりで居てくれよ」

「了解だ。それじゃあ頼むぜ!」


 最近は本当に刀ばかり握っていたのもあってか、こうして弓を扱うのも随分と久しぶりな気がする。

 ただ……こうして真一たちと一緒に狩りをするというか、ダンジョンに入ろうとした時に鬱陶しい視線が幾つかあった。

 それは今まで俺に向けられることのなかったもの……つまり、SランクになったことでCランクの二人をキャリーというか……そんな風に見てくる視線がかなり多くなったのである。


(……よくもまあここまで態度が変わるもんだな。ま、今更だけど)


 だからこそ、真一と芳樹も少しだけ心無いことを言われることもあるらしい。


『そんなこと気にしても仕方ねえよ』

『そうだぜ? 確かに何も思わないわけじゃないけど、俺たちは親友とダンジョンに潜りてえんだ。何も気にならないさ』


 そう言ってくれた彼らの言葉に感動してしまった。

 沙希も夢もそうだけど、特に俺との距離の取り方を変えたりするようなことはなく今まで通りに接してくれるし、確かに高ランクにはなってしまったがだからといって見る目も変わったりはしない……そんな風にランクに囚われず、俺自身を見てくれて親友と言ってくれる彼らの存在が本当にありがたい。


「うおっ!?」

「芳樹!?」


 少しばかり感傷に浸っていると、ちょうど芳樹が体勢を崩してしまっていた。

 そんな彼に向かって魔物が一斉に向かい、真一も芳樹を守るために動く――だが二人とも忘れてないか? 後ろに居るのが俺だってことに。

 スキル【魔弓】は常に発動しており、それは芳樹に向かう魔物たち全ての脳天から突き刺さる。


「お、おぉ……」

「……すげえ」


 貫かれた矢はしっかりと魔物たち……狼型の魔物なのだが、奴らの頭から顎を貫通し床に縫い付けるほどの威力を備えている。

 ただ……こうして練度が高くなっていることは感じても威力そのものが上昇していることは感じ取れないため、やはり弓術に関してはこれ以上の力の発揮は見込め無さそうだ。


『多くの物を求めること、それは確かに大事なことだ。だが、どんな強者でも限界というものは存在する――私とてそれは例外ではない……であるならば、私はただそれだけを極めるだけだ。二兎を追う者は一兎をも得ず、と言うしな』


 これもまたレギオンナイトの言葉である。

 今日まで色んなことがあったけれど、俺の心の根底にはいつもレギオンナイトが居てくれる。

 自分の中に絶対の存在を持つというのは大事らしく、どこまでも自分自身を持てるというのは大切なことだ……まあ、これもレギオンナイトの心持ちなんだが。


(高校生になってまで漫画のキャラクターに憧れるのもどうかと思うけど、今更変わらねえもんなぁ)


 そもそも刹那も知ってることプラスでそこそこに好きなのもあってか、そういう話が出来るからというのも大きい。

 なんてことを考えていると真一と芳樹も既に体勢を整えており、俺も彼らに動きを合わせるようにして狩りを続行する。

 俺からすればCランク階層の魔物を相手にするのは簡単だが、だからこそ俯瞰的に見ることができ、尚且つ共に戦う人の動きをしっかりと見て弓ならではのサポートを行う特訓にもなる。


「そこだ二人とも!」

「おうよ!」

「任せてくれ!」


 俺のコールに合わせて二人が魔物の群れに突っ込む。

 背中を見ている俺を信頼してくれているかのように、彼らは一切背後を心配することなく目の前の魔物を斬っていく。

 いつもと違って緊張感はあまりないだろうが、それでも伸び伸びと戦えることは一つの経験になるはずだ。

 その後、満足に狩りをし終えた俺たちは換金を済ませて組合を出た。

 しかし、そこでいつもはなかったとある珍事件が起きた。


「あ、お兄さんたちって探索者?」

「かっこいい!」

「ねえねえ、良かったらお話を聞かせてくれない?」


 見た感じ、大学生のお姉さんたちが俺に声を掛けてきた。

 特に雰囲気から力を感じないあたり彼女たちは一般人で探索者ではない……これはもしかして、噂に聞く探索者に対するナンパだろうか?


「お、おい真一……大学生のお姉さんが声を掛けてきたぞ!?」

「そうだな……っ! えっと、何か用でしょうか!!」


 完全に乗り気じゃないかと俺はため息を吐く。

 確かに二人が興奮してしまうほどに綺麗なお姉さま方ではあるのだが、明らかに俺たちを金づるとしか見てない目だけど……。

 そんな風に考えていると、案の定お姉さま方に二人は手を握られてニヤニヤしてしまっている。


「ねえ、君はどう?」

「いや、俺は――」


 そもそも興味ないし、というか真一と芳樹も最初はデレデレしていたが既に自ら手を離していた。

 俺たちの様子から餌にならないと判断したのか、お姉さま方は分かりやすく舌打ちをして俺たちを睨む。


「つまんないわね」

「せっかく冴えない顔の男に声をかけてやったってのに」

「どうせ探索者でも大したことないでしょ」


 ……なんか、ウザいとか思う以前にちょっと面白いなとも思っていた。

 俺たち三人の内誰もが今の言葉を受けても特にショックに思ってはいないし、逆にそうですか~と流すだけだ。

 年下のクソガキに流されたことが更にムカついたのか、俺に声を掛けようとした女性がしつこくまた何かを言おうとして……そこで我らが女神が降臨した。


「何をしているのかしら?」

「三人とも大丈夫~?」

「め、面倒なのに絡まれてるね?」


 刹那、沙希、夢が堂々と現れるのだった。

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