言っちゃうよ

「……………」

「どうしたの?」

「なんか……ボーッとしてる?」


 学校での休憩時間、こっちの教室に遊びに来ていた沙希と夢が怪訝そうな顔で俺にそう聞いてきた。

 どうしていきなりそんなことを聞いてきたのか気になったのだが、もしかしたら昨日のことが表情に出ていたのかもしれない。


「いや……特に何もないけど」


 とまあ俺としてはこう伝えるしかない。

 昨日偶然……あくまで偶然と表現するけれど、俺は刹那がかなり露出度の高いサンタ服を着ていた光景を見てしまった。

 俺のためにと彼女は言っていたため、あれは間違いなく俺のために用意してくれたものであることは分かった……分かったのだが、強く目に焼き付けられるほどに記憶に残っている。


「ほんとぉ?」

「……怪しい」


 やめてくれ、あまり追及されたらボロが出そうだから。

 まあでも朝食の時にも刹那に似たような反応をされてしまったが、流石に彼女は俺が見てしまったことを知らない。

 歴戦の戦士でもある彼女とはいえ意識を割かれていたのもあってか、綺麗に俺のことには気付いていなかったらしい。


「どうしたのよ瀬奈君」

「あ、刹那ちゃん!」

「実は瀬奈君がおかしくて」

「瀬奈君が?」


 おかしくはねえだろと睨んでおく。

 沙希と夢は別に俺を心配しているわけではなく、単純に俺と刹那のやり取りを見たいだけのようだった。


「最近寒くなってきたし風邪とか? 熱があるの?」


 そう言って刹那は俺の額に手を当てた。

 ひゅうひゅうと楽しそうに囃し立てる沙希たちと、例によって例の如く俺が刹那と仲良くしているのが気に入らない連中の強い視線と……そんな視線を受けるのも何度目だよとため息を吐く。


「いや、風邪とかじゃないよ。ちょっと……ね」

「ちょっと……それは私に言えないこと?」


 言えないねどう考えても。

 まあ刹那のことだから見ちゃったと言っても笑ってくれそうだが……いや、彼女がサプライズと思っているのに実は俺は見てしまっていたというのは彼女的には嫌かもしれないな。

 そう考えると知ってしまったことを黙っているのもどうかと思う……やっぱりどんなことであっても、隠し事は俺の性に合わないな。


「夜にでも話すよ」

「そう?」

「ねえ聞いた夢! 夜だって!」

「夜……っ!?」


 ええい! 変な想像をするんじゃないスケベ娘共めが!!

 俺もそうだが刹那も既にこういうやり取りに慣れてしまっており、呆れたようにため息を吐くだけで照れたりはしなかった。

 ……まあでも、そんな余裕溢れる刹那の姿が逆に俺たちの関係性の進行具合を周りに見せ付ける形になり、何人かの男子が膝を突いてしまっていた。


「今更私たちがそれくらいで照れたりはしないのにね?」

「まあな」


 そんなこんなで、ちょうどそこで予鈴が鳴って沙希と夢は慌てて自分の教室へと戻り、刹那もヒラヒラと手を振って自分の席に戻った。

 先生の声が子守唄のように眠気を誘う中、俺の中で彼女が……永遠が面白そうに囁く。


『今までに見たことがない己が女の姿に興奮するとはなぁ……ふむ、そんなにもそのサンタ服? というものが良かったのか?』


 うるさいよ……というか、本当に相棒がずっと俺の中に居るせいでプライベートもクソもない。


『そんなものは今更だろう? 言っておくが、私は常にご主人を見ていたから色々と知っておるからな。妹のために頑張っている姿も、母親を楽させたいとダンジョンを駆け抜ける姿もな』

「……………」

『今となっては全て理解出来ているが、興奮して一人――』

「っ!? ごほっ!? げほっ!?」

「ど、どうしたんだ時岡!!」

「な、なんでもないです!」


 先生に驚かれた俺を永遠がクスクスと笑っているのが本当にムカつく。

 永遠は俺にとってもはや切り離せないほどの存在なのは確かだが、こんな風に脳内で囁くことが増えたからこそ気の置けない友人のようなやり取りも本当に最近増えてきた。


『サンタ服……ご主人は刹那のような体付きの女子が好きであろう? ならば私がそれを着ている姿も想像してみるが良い。ほれほれ』


 ……ちょっとこの相棒、少しうるさいぞマジで。

 相棒と初めての邂逅を経てから数日は経っているが、本当にこいつは俗世間に染まってきたというか……刹那とも話が出来るほどになっている。

 俺の刀に触れることで会話は可能になっており、いつの日か相棒が言っていたように再び体を具現化させて刹那の横に並ぶ日が来てもおかしくない。


『まあ、少しは我慢するが良い。私としてもようやくこうして会話が出来るようになって心躍っておるのだ。私の主ならばそれくらいは大目に見ても良かろう』


 大分大目に見ていると思うんだけどな。

 それから俺は永遠と話をしながら授業を受け、放課後になってから刹那と一緒にいつも通りダンジョンへと向かう。

 最近は刹那と深いダンジョンで狩りをしてばかり、そもそも俺たち二人が揃うことで最難関の場所とはいえかなりの魔物を狩ることが出来るため、ドロップするアイテムも強力かつ大量に取れるので、換金する時にアイテムを見てくれる担当の人が今日はどんなアイテムが見れるかと最近はずっとウキウキだ。


「あざっした~!! また持ってきてください~!!」


 元気の良すぎる担当者と別れたその帰り道、刹那との会話で俺は例のアレを口にすることに。


「なあ刹那……俺、見ちゃったんだよ」

「見たって何を?」

「刹那が……サンタ服を着てるところ」

「……………」


 やっぱりビシッと刹那は固まってしまった。

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