サンタ服!?

『沢渡さんとの話は上手く纏まったわ。彼としては瀬奈君の持つロストショットに興味津々みたいだったけれど、あなたに何かあったら皇家の全てを持って潰すと脅したから大丈夫よ』

「それは……良いんですか?」

『良いのよ。そもそも彼も似たような脅しをしてきたはずだもの――こう言ってなんだけれど、あなたに私たちという後ろ盾がなかったらきっと遠慮はしなかったはずだから』

「……………」


 やっぱりそうなんだなと俺はため息を吐く。

 あの研究者である沢渡さんとの話し合いから少しばかり経ち、こうして鏡花さんから色々と事の顛末について話を聞いていた。


「……やっぱりそういうのがあるんですよね。飼い殺しにでもしようとしたんでしょうか」

『可能性はあるわね。まあ瀬奈君の場合はロストショット抜きにしてもSランクということで注目されているわ。刹那同様にそこに関しては家柄に関係なく強い力の持ち主は注目されてしまうから』


 それからしばらく真剣な話ばかりをした後、鏡花さんは空気を変えるようにどこかおどけながらこんなことを言った。


『そろそろ冬……まあ肌寒くなってきたのもあるけど、この寒さを感じると早く紅葉さんや雪さんに会えるってことだもの。仕事のやる気が凄いわよぉ』

「あはは、そんなに楽しみにしてくれてるんですね」


 確かに、そう聞くとそろそろだなと俺も感慨深いものがある。

 夏休みに刹那を連れる形で帰郷したけど、今度は雪と母さんがこっちに旅行という形で遊びに来る……一応、雪はともかく母さんは常に鏡花さんたちが傍に居てくれると思うので安心出来る。


(そういえば最近……刹那が妙にソワソワしてるんだよな)


 12月に入って数日、どうも刹那がソワソワしているのをよく見かける。

 別にボーッとしているとかそういうのではなく、声を掛けたらいつも通りに反応してくれるし、可愛がってほしいと寄り添ってくるのもいつも通り……なのに、夕飯を終えて寝るまでの間に何かしてるんだよなぁ。


『どうしたの?』

「えっと……実は――」


 特に何もないかなってことで本人に聞くことはしてないので、それならと鏡花さんにちょっと訊いてみることに。

 彼女に訊いたところでという気持ちではあるものの、その疑問を口にすると鏡花さんも分からないと当然の回答が……ただ、もしかしたらじゃないかってことでこんな返事があった。


『今月中とはいえ結構先だけど、クリスマスが来るじゃない? もしかしたらそれに関して準備とかしてるんじゃない? あの子にとって初めて彼氏と一緒のクリスマスだから……う~ん』

「どうしたんです?」

『いえ、あの子は私の娘だからもしかしたら私に似てサンタ服でも着てサプライズとかするんじゃないかしらって』

「へぇ……うん?」


 決してそうであるかは分からないのに、刹那のサンタさんを想像してちょっと鼻の下が伸びたのは男として当然の反応だけど……今、鏡花さんは私に似てとか言ってなかったか? 俺の耳が腐ったのか?


『25くらいまで夫の前でサンタ服を着てたわよ? あぁでも、刹那を産んだ周期は

クリスマスイブの夜にではなかったわね!』

「そこまで訊いてないです!!」


 これ、何気に覚馬さんも流れ弾に被弾してない? 大丈夫?

 でも……女性の着るサンタ服って実際に見る機会はなかったけど、SNSとかテレビとかだと凄く可愛いなって思ったことは何度もあるし、それを着た鏡花さんってそれはもう凄く可愛く見えたんじゃないかな?


「覚馬さんも中々やりますね」

『厳格なくせしてムッツリだもの。ま、そういうところも好きなのよねぇ♪』


 分かってたけど本当に昔からアツアツ夫婦だったんだなぁ……。

 俺も刹那とそんな風にずっとラブラブで居れたら良いなと思いつつ、鏡花さんとそれからもしばらく話をしてから通話を切った。


「……ちょっと見てみるか?」


 いけないことをしてしまいそうになるが……気になるものは仕方ない。

 この時間帯だといつも二人で寝室に居る時間だが、俺はまだ自室に居る刹那の様子を確かめるべく部屋に向かい……そこで少しドアが開いていることに気付く。


「……浮気じゃないよね?」


 なんて、そんな万が一にもあり得ないことを考えてしまったことを恥じる。

 一瞬とはいえ彼女の浮気を考えること自体が刹那を信頼していない証だなと思うし、普段の彼女を見ていればそれがあり得ないことも分かっている。


「ったく、そんなことを一瞬でも気にすんじゃねえよ俺ってばさ」


 そこまで考えると彼女の様子を考えるのも別に良いかなと思えてきた。

 ただ……既に俺は刹那の部屋に近付いてしまっており、その空いたドアの隙間から中が見えてしまった。

 そこから見えたもの――それは刹那が赤い衣装……つまりサンタ服のコスプレをしている瞬間だった。


「う~ん……まだ先だけど別に悪くはないわよね? 結構似合ってると思うし……瀬奈君喜んでくれるかしら♪」


 俺はすぐにその場から立ち去り、寝室のベッドに横になった。

 うつ伏せになって枕に顔を押し付け、どれだけ俺の彼女は意地らしいんだと足をバタバタとさせる。


「鏡花さん……刹那はあなたの娘でしたよ」


 本当にその通りだった……にしても凄かったな。

 全体的に可愛らしい服だったのはもちろんだけど、上は胸元を隠すだけなのと下は短いスカートで太ももが眩しかった。

 ……あんなのを前にしたら聖なる夜が性なる夜になっちまうぞ?

 なんてことを思いつつも、おそらく刹那は内緒にしてでのことだと思うのでそれを知ってしまったことはかなり申し訳なかった。

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