永遠

 名前を欲しい、そう言われた。

 眠り続ける刹那と逆の位置で横になる相棒は、その瞳に期待感を乗せて俺を見つめている。


「……名前か」


 名前、そう言われても正直困ってしまう。

 猫や犬に名前を付けるのと違って、目の前の彼女は確かに俺の刀であり相棒でもありしっかりと意志疎通の図れる存在だ。


「やはり……難しいだろうか?」

「……あ」


 少しだけ寂しそうに相棒がそう呟いた。

 そうして更なる変化として相棒の体が段々と透けていく――彼女はさっき言っていたが、これはおそらく数分間しかこの体を現実に維持出来ないからだろう。

 ここで彼女が消えてしまっても話をする機会はいくらでもある……でも、俺は今この場で伝えたいと思い頭を働かせた。


(名前……名前か……)


 その時、俺はもう片方で眠る刹那のことを想い……そしてそこから連想するかのように彼女に伝えた。


「……永遠とわってのはどうだ?」

「永遠……?」

「あぁ。その……いきなりだったから捻りとかないんだけど、刹那の名前の対になる感じでどうかな?」

「それは……くくっ、どこまでもあなたは刹那のことを考えているんだな?」

「仕方ないだろ! つうかいきなり言い出したお前がだな……」


 クスクスと相棒は笑っている。

 彼女は消える直前、俺に顔を近づけ……チュッとキスをしてから言葉を続けた。


「永遠……今日から私はそう名乗ろう。もちろん心の中で呟く時は変わらず相棒でも構わんぞ? そっちも気に入っているからな」

「……そうか」


 スッと、空気に溶けるように相棒は消えた。

 まさか……こうして相棒と実際に現実で会うことになるとは思わなかったし、更には名前まで付けることになるとも思っていなかった。

 永遠……刹那と対になる名前ということで安直かもしれないけど、彼女が喜んでくれたなら幸いだ。


「うん?」


 その時、心の中で彼女が当然だと頷いた気がした。

 刹那との名前で対になるというのはもちろんだけど、それ以上にもう一つ理由もその名前には込められている――それはこれからも末永くよろしく相棒と、そういう意味もあったのだ。


「……ちょっと外の空気を吸うか」


 眠り続ける刹那を起こさないように起き上がり、俺はベランダに出た。

 最近……というよりこうして寮からマンションに移ったことで、ベランダという場所があるせいでよくここを利用する。

 既に深夜みたいなものだけど街の灯りは所々あってキラキラしており、まるで星の海のよう……と言うと言い過ぎかもしれないが本当に綺麗だ。


「落ち着くねぇ……」


 相棒が意識を持っていたとはいえ、彼女との情事を終えた後に景色を眺めながら気分のリフレッシュ……こいつは贅沢だなとちょっとだけ苦笑する。


「刹那と永遠……か」


 二人の女性に囲まれているような気分にさせられたけど、やっぱりあくまで永遠は俺の相棒だという認識は消え無さそうだ。

 彼女も人肌の触れ合いに興味はあったみたいで、実際に経験したことで更に良いものだと実感した……けれどそこまで止まりのようだ。


「……どこまでも特別な刀……か」


 本当にその通りだなと俺は自分の中で眠りに就いた相棒を想う。

 相棒……永遠という名を付けてさっきも思ったことだが、これからも末永くよろしく頼むと俺は心の中で呟いた。

 その後、しばらく外の景色を眺めた俺は部屋に戻った。


「おかえり」

「起きてたのか」


 眠っていたはずの刹那が起きていた。

 横になった俺の腕を抱くようにして身を寄せてきた彼女はジッと俺を見つめ……どこか頬を赤くなっている気がするけど見間違いではないようだった。


「一応覚えてるわ……その、自分がどんな風な表情をしているかを俯瞰してるかみたいにね……私、あんな顔をしていたのね」

「それは……」


 ……まあでも、表情が崩れるってことはそれだけ良かったってことだと思うので俺からすれば嬉しいことだけどさ。

 そう伝えると彼女は顔を真っ赤にしたものの、ギュッと更に抱く力を強くした。


「相棒……永遠って名前を付けたよ」

「永遠……ふふっ、まるで私と対になるような名前ね?」

「あぁ。ちょっと意識したのもあるし、これからもよろしくって意味もある」

「そうなのね。凄く良いと思うわ」


 永遠と何度か呟く刹那を見ていると、まるで娘の名前を噛み締める母親のようにも見えてしまった……まあ、そうは言っても奥さんを持った経験も子供を持った経験も当然ないんだけどさ。


「これからこういう機会が増えるのかしら?」

「いや、たぶんないんじゃないか。一応数分間だけ実体化は出来るようになったみたいだけど、俺としてはせっかく触れ合えるなら会話だけでも良いくらいだし」

「え? 実体化できるの!?」


 あ、そうかそこは知らないのか。

 頷くと是非にこっちで機会があれば見たいと言ってくれた。


「夢の中だと少し頭がフワフワしているからね。現実で頭がスッキリしている状態で彼女をまた見てみたいわ」

「分かった。また提案とかしてみるよ」


 きっと永遠は嬉しそうに頷くと思うけどね。



【あとがき】


ということで名前は永遠に決まりました。

これって元々決めてたんですけど、被ったなぁと思いつつ色々と考えていたら大分間が空いてしまいました。

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