深い繋がりのおかげ

 ベッドの上で俺はそれはもう大袈裟という言葉が足りないほどに驚いていた。

 突然に刹那にキスをされたかと思えば、彼女の声音で全く別の存在を思わせる喋り方だったのだから。


「……相棒?」

「うむ。そなたの相棒だぞ?」


 ニヤリと、それこそ唇をペロッと舐めるように刹那は……相棒は笑った。

 男としての情欲をこれでもかと刺激するようなその仕草にドキッとした……確かにそれは刹那の顔のはずなのに、全く雰囲気が違うだけでここまで受け取り方も変わるのかと驚愕する。


「……ってお前は!」


 そんな彼女にキスをされたことに驚きはすれど、俺はすぐに頭が熱くなった。

 確かに体は刹那だが今の彼女は刹那ではない……俺はずっと共に居た相棒だというのに、今だけは少しだけ怒っていた。

 尚も押し倒そうとしてくる彼女から距離を取ろうとすると、そんな俺を待てと言って止めたのもまた彼女だ。


「この件に関しては刹那も了承しておる。安心せい」

「……え?」


 刹那も了承……どういうことだ?

 呆然とする俺を見てクスクス笑う相棒、彼女はゆっくりと……それこそ俺がしっかりと理解出来るように細かく教えてくれた。


「まず、刹那は私の願いを聞き届けてくれた。現実に体がないことで経験出来ない男女の営み、それを彼女が体を貸してくれることで経験させてくれるとな」

「……えっと?」

「私は常にご主人と繋がっている。故にご主人が刹那と愛し合っている時、とてつもないほどに気分が高揚していることも……幸せを感じていることも全部分かっているのだ」

「……やめろ」


 やめてくれ、俺のプライベートはどこにあると言うんだ……?

 とはいえ……刹那が了承した……? もしかして、相棒に意識を取らせるためにあんなに無理に体を動かして疲れさせたんだろうか?


「もちろん最初は刹那も渋っていたし、私としてもそこまで本気というわけではなかったのだがな……ただ、ご主人との話を私が聞いていた時に随分と羨ましそうな顔をしていたようだ。私があなたを支え続けたことは嘘ではない……そして意識が宿っているのならと、刹那は体を貸してくれた」

「……そうだったのか」


 その話を聞いた時、俺はそれはもう困惑していた。

 でも……それでもちょっと気が引けるというか、刹那に悪いという気持ちは当然ながらあるけど……だからといってこのまま相棒を拒絶したところでシコリになりそうな気がしないでもない。


『瀬奈君。今日はどうか、何も言わずにあの子の願いを叶えてあげて』


 ふと、そんな刹那の囁きが耳に届いた気がした。

 というよりご飯の最中に今日は何も言わずに付き合ってほしいと言っていたけど、その言葉の意味はこれだったのか……。

 俺の悩みは相棒に伝わっているらしく、無理なら大丈夫だと言ってくれた。

 ……まあでも、今回ばかりは少し簡単に考えることにしようかな。


「分かった。今日は相棒の相手をするよ」

「っ……本当か!?」


 そんなに嬉しそうにするんだ……。

 その後、俺は目の前の相手が刹那の体でありながら中身は相棒という女性を相手した。

 相棒は初めてのことにとにかく驚きながら……というか、不思議そうに体に生じる感覚に味わっている彼女はどこか幼い子供のようにも見え、少しだけこう言うのが好きそうな人は居るんだろうなと笑ってしまう。


「それで、満足出来たのか?」

「うむ。悪くないものだな……なるほど、これが愛し合うということか」


 腕の中で相棒はずっと笑顔を浮かべている。

 時折お腹を擦っている様子が非常にエッチだなと思う反面、これに関してはいつも刹那に感じていることだ。

 それからしばらくジッとしていると、彼女はこんなことを口にした。


「……ふむ、感覚は覚えたぞ。これなら夢の中にご主人を引き入れていつでも経験することは可能だな」

「はっ?」

「ふふっ、冗談だ。刹那の体を通じて更にご主人との繋がりが強くなったからこその結果だ。私は刀だが、夜の営みではあなたの鞘に過ぎぬ」

「それさ。やってる最中にも言ってたけど中々秀逸な表現だよな」


 俺が刀で相棒が鞘……どの部分がとは敢えて言わないでおこう。

 それからしばらく相棒が宿った刹那と話をした後、相棒は目を閉じた――どうやら刹那への憑依は解かれたようで、彼女はそのまま横になって眠りに就いた。


「……不思議な時間を過ごしたもんだな」


 少しだけの罪悪感のようなものはあったけれど……まあ、悪くはなかった。

 完全に疲れ切っている刹那は全く目を開けることもなく、ジッとそのまま眠り続けているので、俺も横になって目を閉じようとした時、ふと刀が輝いた。


「お、おい?」


 刀が輝くというか、そもそも呼んでもないのに出ていたわけだが……。

 光が消えた時、刹那が居る方とは別の方向……つまり、隣に彼女が……着物美人の相棒が横になって俺を見つめている。

 ニヤリと笑う相棒と違い、俺はただジッとしたまま驚くだけだ。


「繋がりが深くなったと言っただろう? 数分程度だが、こういうことも可能になったわけだ」

「……マジかよ」

「うむ。ところでご主人よ――もう一つだけ、お願いを良いだろうか?」

「お願い?」


 取り敢えずこの状況を整理したいところだけど……なんだ?


「名前が欲しい。私も何か良い名前が欲しいんだ」


 それはある意味で、あまりにも難しいものだった。

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