運命

「……はっ!?」


 パッと、俺は目を覚ました。

 体を起こして周りを眺めてみるが、先ほどの空間ではなく刹那の部屋へと俺は戻っていた……いや、戻っていたのではなく元からここに居たわけだが。


「……相棒」


 まさか、夢の中とはいえ擬人化した相棒と出会うとは思わなかった。

 今までは直接相棒の声が脳に響く感じだったけど、女性の喋り方になったと考えれば今までと何も変わらない……まあ、まさかあんな着物美人とはなぁ。


「っ……瀬奈君?」

「おっとすまん。起こしたか?」


 ごめんと謝ると、刹那は目元を擦りながら体を起こした。

 眠たそうにしながらもしっかりと俺を見つめ、パジャマのボタンが外れているのにも気付いていない。


「刹那、ちょっと動かないで」


 彼女に動かないよう促し、俺は胸元のボタンを留めていく。

 刹那は当然途中で気付いたが、特に何かを言うこともなく俺がボタンを留めるのを大人しく待った。


「これで良しっと」

「ありがとう」

「いや? 代わりに胸の柔らかさを堪能した」

「エッチ」


 お互いに笑い合っていると、ふと刹那が目を丸くする。

 どうしたのかと首を傾げると刹那はこう言った。


「昨日と表情が違うと思ってね。何か……スッキリしたような?」

「あ~そういうことか」


 別に良いかと、俺は夢であったことを伝えた。

 今までに何度か相棒の声は聞こえていたのだが、夢の中で相棒……彼女と出会い話をしたこと、そしていい加減に悪人に対して力を使うことを迷うな――そう言ってケツを叩かれたことも全部話した。


「そうだったのね。相棒さんが……」

「ははっ、正直今でも信じられないくらいだけどな。でも相棒からしたら夢の中に出ないと気が済まないほどに俺の様子は気に入らなかったんだろう」


 まあでも、確かに客観的な考え方をすればくよくよしすぎたかもしれないな。

 俺は別に自分の力を誇示するために能力を使うことはないし、出来ることならロストショットを使うことがなければ良いと考えている。

 しかし、相棒にケツを叩かれたことで吹っ切れたのも確かだ。

 俺がロストショットを使う時、それはどうしようもない悪人を前にした時だ。

 その時はもう、俺は迷わない。


「そう何度も何度も使う機会が訪れてくれとは思わない。けど、俺は自分に出来る範囲であの力を向き合うことにするよ」

「そう、瀬奈君がそう決めたのなら私はただ寄り添うだけよ」

「ありがとうな」

「ううん、私がそうしたいからだわ」


 朝から彼女と熱い抱擁を交わし、俺たちは着替えてリビングに向かった。

 俺と刹那、覚馬さんと鏡花さんの四人で朝食を迎えるのは随分と久しぶりだったけど、会話の絶えない楽しい時間だった。

 その中で真剣な話もした。

 内容としてはあの事件の顛末について。


「今の探索者制度、そして探索者そのものに良からぬ感情を持つ者たちによって構成された組織というのが考えられる。まあ、その実行部隊のようなものに元探索者が協力するのは世も末だな」


 今回の一連の事件に大きな組織が関わっているのは間違いなく、そこには決して少なくはない探索者の姿があるのも確かのようだ。

 俺たちが出会った大垣というあの男もそれなりに名を馳せた過去があるようで、そう考えると全ての人間を押さえようとするとかなりの時間が掛かるようだ。


「だが確かに今回の騒ぎに関してはある程度は落ち着く方向になるはずだ。元高ランクの探索者と連絡が取れないあたり不安要素はあるのだがな」

「なるほど……」

「……探索者なのにどうして手を貸すのかしらね」

「さあね。色々とあるのかもしれないわ……私たちには想像出来ない何かがね」


 だろうなと、俺も刹那も頷く。

 同じ探索者同士なのに敵対しようとか、邪魔をしようとか、それこそ危ない目に遭わせようと思ったことはない。

 共にダンジョンの奥を目指す仲間だと考えているからだ。

 でも世界のどこを探しても誰かを傷付けたいと考える輩が一定数居るのは確かで、それはどんなに手を尽くしてもなくならないことは分かっている……それでどうにかなるなら、世の中からイジメなんてものはなくなるだろうからな。


「それにしても瀬奈君。今日は大分表情が昨日と違うな?」

「そうね。私も思ったわ」

「……あ~」


 相棒のことを話そうかどうか迷ったが、覚馬さんと鏡花さんも深いことを聞くようなことはせず、話したい時になったら話してほしいと言ってくれた。

 こんなに素敵な人たちならポロっと話してしまいそうだが、何となく相棒があまり喋るなと言っているような気がするので、しばらくは黙っておくか。


「あぁそうだ。瀬奈君」

「はい」

「君のロストショットに関してだが、もしかしたら少し別の機会に話をすることになりそうだ。その時は予定を空けてくれると助かる」

「分かりました」


 それくらいならお安い御用だ。

 刹那が心配そうに見つめてきたが、俺は心配するなと苦笑した。


「数日間はダンジョンにまだ入れないだろうが、またいつも通りの日常が戻ってくるだろう。そうなったらそうなったではしゃぎすぎて何やら事件があるかもしれないがそこは組合に頑張ってもらおう」

「あはは、そうですね」


 ということで、どうにかいつも通りの日々が戻ってきそうで安心した。

 俺の方もそうだけど、真一たちにまずは付き添うことにしようかな。久しぶりのダンジョンということで、何かあった時のために傍に居た方が良いからだ。


「……………」


 探索者ってのはもっと昔から生まれた存在だ。

 なのに俺たちの世代になってこうも色んな問題が出てくる……嬉しくないけど何か運命的なモノを感じてしまうなぁ……はぁ。

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