顛末

「な、何をしやがった!?」


 俺のスキルであるロストショットはすぐに効果を及ぼした。

 男は慌てるように何かをしようとするが、全く何も反応を起こさないことに驚いている。


「お前はもう魔力を失った。つまり、スキルも何もかも失ったわけだ」

「……へっ?」


 呆然とした男を俺は特に何も考えずに見返す。

 思えばこうしてロストショットを使ったのは久しぶりな気もするけど、今回に関しては躊躇なんて一切なかった。

 こいつらがやろうとしていたことは間違いなく害あるもの、こういう奴にこそ全てを失わせるスキルは相応しいだろうし。


(まあでも、あんまり良い気というか清々しさはないけど……)


 相手の力を奪ってしまうことには変わりないため、少しだけ気分が沈む。

 それでも自分がやったことはみんなのためになったんだと思うことにして、俺はこの男を引っ掴んで元の場所へと戻った。


「瀬奈君!」


 戻った俺に刹那が駆け寄った。

 俺たちの前に現れた今回の男たち……中央に立っている大垣と呼ばれた男に関しては先ほどまでの余裕そうな姿は既になく、魔力を失った男を見て驚愕の表情を浮かべて俺を見つめた。


「何を……しやがった……?」

「さあな。その男に訊けば良いんじゃないか?」


 そう言うと大垣に向かってひょろい男が泣きつく。


「お、大垣さん! こいつ……こいつが俺の魔力を消しやがった!!」

「何を言ってやがる……魔力を失わせる? そんなことが出来るわけねえ! 冗談言ってんじゃねえぞ鬼塚!」

「でもそうなっちまったんだよ! くそっ……うおおおおおおっ!!」


 ひょろい男……こっちは鬼塚か。

 鬼塚は必死に魔力を練ろうとするが何も起こらず、それは大垣を含めてもう一人の男にも伝染していく。

 こいつらの口振りからおそらく、何かしらの組織であることは分かる。

 後はどうするか……そう思った時に覚馬さんたちが合流した。


「ご苦労だった。あれから数匹ほど魔物が再び現れたが全て滅した――さて、色々と話を聞かせてもらう必要がありそうだな?」

「……クソが――」


 大垣が最後の悪あがきだと言わんばかりにスキルを発動させようとしたが、それよりも俺は早く懐に入り込んで斬り付けた。

 斬り付けたとはいっても峰内だ。


「ぐっ……」

「大垣さん!?」

「……………」


 大垣が倒れたことで、周りの二人も完全に戦意を喪失したようだった。

 それからはすぐに事態の収拾が図られ、俺が飛んだ場所に関しても組合が主導する形で調べに入るとのこと。

 俺と刹那の正体が知られていないとはいえ、流石にこれ以上は誤魔化しが利かなくなるとのことですぐに帰ることに。


「瀬奈君。やっぱりあの人の魔力がなくなったのって……」

「あぁ。俺がやった」

「そう……お疲れ様」

「……ありがとう」


 刹那がゆっくりと近づき抱きしめてきた。

 悪人を退治したことは褒められることであり、少しでも遅かったら取り返しの付かないことになっていた可能性もある。

 だからこそ、さっきも言ったが俺がしたことは間違ったことではないはず……それでも“奪う”というか“失わせる”というのはやはり思うことがあるので、今回も顔に出ていたんだろう。


「刹那の存在って本当に大きいよ」

「そう? なら、これからもずっとあなたに頼られる存在で在り続けるわね。将来はお嫁さんになる予定だし、ずっと続くわよ?」

「……そうだな。末永く付き合ってくれ」

「もちろんよ。お互いの命が尽きるまでね」


 それはちょっと重いなぁ……けど、望むところだと俺は笑った。

 その後は先ほど言ったようにやることはなくなったのですぐに帰ったが、今日は刹那の実家に泊まることにしている。

 刹那の家に着いた後、改めて汗を流すために刹那が風呂に向かい、俺は覚馬さんと鏡花さんの二人と向かい合っていた。


「……ということなんです」

「そうか。それもまた君のスキルか」

「なんと言うか、凄いというのもおかしいけれど……規格外なのね瀬奈君は」


 あははと、俺は頭を掻きながら苦笑した。

 俺たちが何を話しているのか、それは俺が持つロストショットについて――今回の騒ぎに関して、せめて覚馬さんたちには伝えておきたかった。

 探索者としての力を完全に失わせる禁忌とも言える力、それをあの男に使った時点で少しばかり隠すのも難しかった。


「魔力を失わせる……か。前代未聞の力だが、それが公になれば国からしたら喉から手が出るほどに欲しいモノだろう。それだけの抑止力とも言えるが、逆に恐怖もあるだろうからな」

「……………」

「以前にあったあの……いや、これは良いだろう」

「え?」


 覚馬さんが言おうとしたこと、それは俺も察することは当然出来た。

 しかし覚馬さんは途中で言葉を止め、別のことを話すようにこう続けた。


「あの男から魔力は失われ、半狂乱になりながら聴取に応じている。そもそもが今回の事件はあまりにも多くのことが起きたのもあるが、魔物が外に出るというあり得ない事件になったのも事実……しばらくはそちらの対処に忙しくなるだろう」

「それは……」

「いずれ話をすることはあるだろうが、今は目の前の事柄に対処することが大切だからな。どうやらバックには大きな組織が居るようだし、何より犯罪歴のある高ランク探索者の姿も見え隠れしている」


 一先ずはロストショットなどに関しては気にする余力がそもそもないらしい。

 これから先は大人のやることだと、覚馬さんは俺の頭を撫でた。


「しばらくはゆっくりすると良い。今回のことに関しては間違いなく君のおかげで解決への一歩になるんだ。色々と任せてくれ」

「……はい」

「ふふっ、取り敢えずは落ち着けるわね」


 そうですねと俺は笑った。

 しかし……いずれは色んな人と、それこそ組合とも向き合う瞬間が来そうなことだけは確かだった。

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