小休止

「……なっ!?」


 刀が何かを斬った瞬間、それは姿を見せた。

 見た目の異様さを除けば本来この場所に居てはいけない存在……それこそ、今までの常識を覆す光景が俺たちの目の前に広がった。


「魔物……!?」


 背後で刹那が大きな声を上げた。

 そう――俺たちの前に姿を現したのは魔物……ただ普通の魔物ではなく、何か拘束具のようなものを身に付けた魔物だった。

 これはなんだと考えるよりも先に頭の中を占めたこと、それはどうしてダンジョンの外に魔物が居るのだということだ。


「魔物が外に……馬鹿な。そんなはずは――」

「覚馬さん!」


 それは本当に咄嗟の動きだった。

 俺は覚馬さんの前に立つようにして刀を一閃――何か小さなものを斬ったが、それは覚馬さんに対して放たれた魔法だった。

 もちろん俺がこうして守りはしたが、覚馬さんはちゃんと反応していたので仮に俺が出なくても大丈夫だっただろう。


「……そうか。あっちか」

「瀬奈君?」


 相棒が示した方向に視線を向けた時、俺が斬った魔物が暴れ始めた。

 拘束具によってそこまで激しい動きは出来ないようだが、魔力のようなものが暴走しているらしく今にも暴発してしまいそうだった。

 覚馬さんに視線を向け、この場は任せますと伝えるかのように俺はすぐにその場から駆け出した。


「瀬奈君。気を付けて――追いつくからね!」

「あぁ」


 刹那ともそう言葉を交わし、俺は更に速度を上げた。

 スキルによって可能な限りのスピードを実現しているからこそ、流石に刹那であっても付いてはこれないため一旦俺が先行する形になる。

 俺自身もある程度は勘づいているものの、ほぼほぼ相棒がこっちだと示す場所に向かっているに過ぎない。


「……見つけた」


 そこは開けた公園だった。

 既に夜ということで本来であれば小さな子供たちで賑わうこの公園も、今だけは静寂に包まれている。


「まさか見つかるとは思わなかったよ」


 公園に佇む一人の男、彼はゆっくりとこちらに振り向いた。

 その顔はどこか見覚えがあるような気がしないでもなかったが、今回の一連の犯人だと目星は付いている。

 取り敢えず今はこいつを拘束して覚馬さんや組合の人に任せれば良いだろう。


「あんな騒ぎを起こしたのなら見つけないわけにもいかないだろ」

「ふむ……分からんな」

「何が?」

「あの魔物にはどんなアイテムやスキルにも察知されない最上位アイテムを身に付けさせていた。だというのに何故、こうもあっさりと見つかったんだ?」

「さあな。適当に刀を振ったら見つけちまった」

「……適当だと? そんなことで見つけたというのか?」


 体を震わせるように男は俺を睨んだ。

 その様子はともかく、今の少しのやり取りでこいつがどこか頭のおかしい奴だという答えは出た。

 こういう奴の相手は面倒だし、何よりも考えていることが分からない人間の相手をするほど疲れし不気味だ――これ以上の問答は無用、一気に拘束してしまおう。


「取り敢えず拘束させてもらう。難しい話は大人に任せるさ」

「ふざけるな……ガキに俺たちの計画を邪魔させるものか!」

「俺たち……なるほどまだ居るんだな。口の軽さはありがたいよ」


 とはいえ、色々と考えることはある。

 こいつが言っていた最上位アイテムというのがおそらくあの拘束具に見えたものになるのか? それとまだ何かありそうだ……それこそ、スキルのようなものが。

 口の軽さはありがたい、思いっきり煽るような言ったけど分かりやすく男は顔色を変えた。


(……攻めるか。どんな攻撃よりも“口撃”ってのは効くからな。レギオンナイトもそう言っていたし)


 そう考えた俺は更に言葉を続ける。


「本来ダンジョンの外に出ることのない魔物が外に出ている……それは確かに驚くべきことではあるけど、ダンジョンの入口に攻撃を仕掛けるだけでなく、その機能さえもおかしくさせようとしている。考える限り碌な計画じゃなさそうだ」

「ガキに何が分かる……俺たちの――」

「悪い計画ってのは阻止されるのが運命だ。古事記にも書いてある」


 ま、書いてないんだけどね。

 それから俺はすぐに刀を手に駆け出し、男に肉薄した。


「っ……」

「終わりだ」


 思いっきり刀の柄で男の腹を抉るように殴った。

 苦しそうな声を出したかと思えば、男はすぐに気絶するように体の力を抜いて倒れ込んだので、この騒ぎの結末としては呆気ないなと思わざるを得ない。

 しかし、やはりまだ何かあったようだ。

 俺は咄嗟にスマホを取り出して刹那に電話を掛ける――ワンコールで出た彼女が声を発する前に、俺は素早く言葉を紡いだ。


「何があっても慌てるな。一旦その場で止まっててくれ」


 それだけ言って電話を切る。

 そして次の瞬間、気絶していた男が持っていた何かしらのアイテムが発動し、俺を黒い球体が包むように現れた。

 一瞬にして目の前が真っ暗になったものの、刀が灯りの代わりになるかのように輝いているため闇の中というわけではない。


「……さてと、どうするか相棒」


 完全に外と切り離されてしまったかのようなこの球体の中……間違いなく見たことのないマジックアイテムだとは思うけど、そこまで慌てないのも手の平に相棒の存在を感じているからだ。

 これはピンチ? 果たしてどうだろうか。

 だって相棒はずっと、こんなものはピンチでも何でもないと元気でわんぱくに光りまくっているから。

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