やはりどこまでも二人はこう

 ダンジョンにおける転移陣の不備、それに関してはしっかりと探索者組合へと報告した。

 まあ仮に俺たちが報告しなくても絶対に誰かが伝えたと思うので、あの出来事に関しては必ず組合に伝わることではあったが。


「……はぁ気持ち良い」


 その転移陣の不備を実際に体験し、刹那に心配を掛けてしまったものの、当たり前だが無事に帰れたので今は気持ち良く風呂で癒されている。

 刹那に心配を掛けたのは本当に申し訳なかったけど、一応彼女も俺に万が一があるとは思っていなかったみたいだし、俺が傍に居るということで他の面子も大丈夫だろうと逆に安心だったようだ。


「……あ~」


 いつも以上に今日は風呂の時間が長いが……まあ仕方ない。

 体を温めてくれるお湯の気持ち良さもそうだけど、何よりどうしてあんなことが起きたのかと気になって考えてしまっているからだ。


「……う~ん」


 ただ、悔しいことにどれだけ考えても当然のように答えは出ない。

 ダンジョンの構造はほぼ謎に包まれており、それを解析出来たものは今まで存在しない。

 ダンジョンに潜れば魔物が居る。

 転移陣は誰が乗っても発動する。

 魔物は外に出ない……等々、それはもうそうであるものと俺たち人々の中では変えようのない常識として根付いている。

 だからこそ、今日のようなことは本当に不可解なわけだ。


「何となく……本当に何となくだけどダンジョン自体の不備ではなさそうな気がしてるんだよ。つまり……あり得ちゃ困るんだけど、人為的に引き起こされたものか?」


 そもそもあまりにタイムリー過ぎる話題もあることだしな。

 ニュースにもなっていたダンジョンの入口に対する攻撃の痕跡、それは俺たちが普段使うダンジョンの入口にも似たような痕跡があったからな。


「……っと、そろそろ上がるか」


 気になることは多くあるけど、組合も本腰を入れて調べるみたいだし俺たち子供は経過を見守るしかない。

 風呂を出てリビングに戻ると、既に家事を全て終わらせた刹那が待っていた。


「随分と長風呂だったわね?」

「色々と考えることがあってな」

「……ま、仕方ないわよね」


 苦笑した刹那を連れて寝室に向かう。

 いつもダンジョンで疲れることはそうそうないのだが、やはり俺も刹那も普段と違うことが起きたので疲れたようだ。

 これは以前の赤い宝石事件であったり、故郷で発生したダンジョンホールの時もそうだったけど、意外と疲れていないようで心というか……精神的な部分にはいくらかの負担が掛かっているのかも。


「でも良かったわ。本当に瀬奈君もそうだし、他のみんなも無事で」

「ま、仮に数日間出られなかったとしても大丈夫……とは言っておこうかな」

「……ふふっ、あなたったら」

「あ、その言い方なんか良いな……」

「ちょっと、私は本気で心配しているんだから」


 軽く肩を小突かれ、すまないと謝る。

 確かに少し言い過ぎたかもしれないけど、それだけの覚悟は持っているつもりだった。

 守りたい存在のために全力を尽くす……こう言っちゃなんだけど、男としては非常に燃える展開ではあるからだ。

 もちろん心配をしてくれる人たちのことを第一に考えるのは当然として。


「ありがとう。まあでも、外に出られなかった時に考えていたのは刹那のことが大きかったよ。俺の力を信頼してくれているけれど、きっと君は心配をするんだろうなって……だから連絡手段がなかったことが本当にもどかしかった」

「……それは逆でも?」

「逆? あぁ、逆に刹那が閉じ込められたらってこと?」

「うん」


 そうなったら……そうだな。

 取り敢えず入口は刀で斬るかもしれないし、転移陣が使えないのであれば刹那が居る方向にむってダンジョンの形を変形させていくだけだ。


(あれ? でもそうなると壁を斬って地上までの道を開けば良かったのか)


 なんてことを考えていると刹那がジッと俺を見つめてこう言う。


「なんか物騒なこと考えてない?」

「いや? そんなことは何も考えてないさ」


 鋭いなと思いつつ、俺は誤魔化すように刹那に手を伸ばす。

 そのまま二人でベッドの上に寝転がるように横になり、俺は今日の疲れを癒してもらうかのように刹那の胸元に顔を埋めた。

 温かく柔らかく、香りも良い……ここは正に桃源郷のような場所だ。


「瀬奈君ってこうするの好きね」

「おっぱいが嫌いな男は存在しないと思う」

「そうなのね。ま、瀬奈君を見ていたら分かることだけど」


 そこで刹那が俺の頭を強く抱くようにしたことで、一瞬息が出来ないほどに口元が魅力溢れる脂肪に塞がれてしまったが、何とか顔の位置を調節することで空気を確保する。


「もうくすぐったいでしょ?」

「息が出来なかったんだから仕方ないって」

「女の子の胸の中で死ねるって幸せじゃないの?」

「それで死ぬのは勘弁だけど病気とか怪我で死ぬよりは遥かに良いかも?」


 夜の寝る前に高校生がするような話ではないか、そう言ってお互いに肩を振るわえせて笑い電気を消した。

 刹那を抱き寄せて眠るその瞬間、俺はやっぱり今日の異変について考える。

 もしかしたら人為的に起こされているかもしれない可能性があった場合、果たして何が目的なのかは知りたいところだ。


(これじゃあみんなで安心してダンジョンに入れないからな……ったく、どこのどいつだよ。人間じゃない可能性もあるけど、人間じゃない何かが外に出ていたらそれはそれで問題だけどさ)


 仮に人間だった場合、とことん頭のネジが外れているであろう相手なのは想像に難くない。

 話の通じそうにない相手であり、もしも俺が出会うことがあったなら……完璧に、二度とそういったことを起こさせないためにあのスキルをまた使うかもしれない。

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