最後

「そうだったの。間が悪かったわね」


 夜になり、夕飯を終えて寝室に入った際に刹那に天使のことを伝えた。

 バタバタしている時よりも、こうして一番落ち着いている時に話そうと思っていたので、別に忘れていたとかそういうことはない。


「彼女が言ってたけど、もう繋がりに関しては大丈夫みたいだ。ただ刹那とも話がしたいって言ってたよ」

「そう。なら早速明日にでも行ってみましょうか」

「分かった。いつになるか約束したわけじゃないし、会えるかどうかは分からんが」


 とはいえ、あの調子だと俺たちがダンジョンに入ったらすぐにまた出会えそうな気もしている。

 しかし……こうして考えると本当に不思議な魔物だ。

 あそこまで会話が出来ると魔物と呼ぶには怪しいが、それでも一応彼女もまた魔物に分類されるわけだし……それに、懸念事項も一つだけある。


(人と交流出来る強力な魔物……もしもこのことが他に知られたら絶対に面倒なことになるぞ)


 あの可憐な見た目もあって、もしかしたら捕獲しようと考える者が現れてもおかしくはない。

 なので出来れば今日みたいに背後を付いてくることをしてほしくはないが……なんだろうな。これは俺の感覚だけど、あの天使とはその内会わなくなりそうな気もしている。

 それこそ刹那と何かしらの話を終えた後、あるべき場所に帰るかのようなそんな気がしていた。


「取り敢えず、明日また空中庭園エリアに行ってみようか」

「分かったわ。でも楽しみね……普通に会話が出来たんでしょう?」

「あぁ。かなり人間味溢れてたぞ」


 翼がなかったら人と間違えてしまうくらいだからな。

 取り敢えず明日またダンジョンに行こうということで話は纏まり、俺たちは二人揃ってベッドに入った。

 俺の隣に居る刹那はそっと距離を詰めて腕を抱いた。


「瀬奈君はいつだってそうよね。知らないうちに解決してしまうんだもの」

「別に除け者にしたとかじゃないぞ?」

「分かってるわ。これだとより一層、あなたの傍に居なきゃって思っちゃう」


 それは俺だって望むところだ。

 許されるならどんな時だって刹那の傍に居たいし、彼女にも俺の傍に居てもらいたい気持ちは当然だからだ。


(えっと……今日良いのかな? 時間もまだ10時だし)


 刹那と天使について一定の解決が見られたことで安心したせいか、隣で横になっている刹那を見ていると自然と気持ちが昂ってくる。

 俺は一旦刹那に離れてもらい、今度は俺から距離を詰めるように顔を近づけた。

 刹那は何をするのか察したようですぐに瞳を閉じて俺を待つ――俺はそのまま彼女に口付けた。


「刹那、良いか?」

「良いわよ。むしろ私もしたいし」


 ということで、お互いに寝るのはまだまだのようだ。

 俺たちがそれから落ち着いたのはかなり時間が経った後で、どれだけ頑張るんだよとお互いに苦笑する。

 ただ体を重ねるだけ……だというのになんであんなに夢中になるんだろうか。

 もはやお互いに裸を見ても照れるようなことはもうないが、逆に裸を見て相手の表情を見れば見るほどに心が燃え上がるかのようだった。


「エッチって……」

「うん?」

「……本当に悪くないモノね。愛する人の行為だもの、自分で言うのもなんだけどどこまでも可愛くなれる気がするわ」

「可愛いだけじゃくてエロいけどな」

「もう!」


 刹那は可愛いだけじゃなくてエロい、それは確かだ。

 でも思いっきり体を動かしたことでかなり眠くなってきた……その後、俺たちがすぐに眠りに就いたのは言うまでもなかった。


▽▼


 翌日、放課後になると俺たちはすぐにダンジョンへと向かった。

 目的はもちろん天使と話をするために。


「……………」


 刹那と共に進む中、以前の寺島のように乱入者が居ては困るとして俺はとにかく周りを警戒していた。

 本来であれば魔物の接近を知らせてくれるマジックアイテムも設置することで、誰が近づいてきてもすぐに分かるようにしておく。


「邪魔されるのは確かに嫌だけれど、随分と苦手になったのかしら?」

「苦手というより面倒なだけだ。だって学校で目が合う度に睨んでくるんだぞ?」


 誰のことか、それは当然寺島のことだ。

 必要以上に絡んでくることはないけど、今日も学校の中で目が合うと睨んできたので俺からすると気分は良くない。

 ああいうのを苦手に思うことはないが、本当に面倒な奴だなと正直に思う。


「あの時、瀬奈君に攻撃を止められて弾き返されたのが気に入らないんでしょう。私もまさかあそこまでプライドが高いとは思わなかったけれど……まあ、瀬奈君に勝てるわけないし当然の結果だったけどね」

「嬉しいこと言ってくれるじゃんか」

「当然でしょ?」


 ニコッと刹那は微笑んだ。

 たとえ嫌なことがあってもこの笑顔を見ると癒される……俺って単純だ。

 そんな風に話をしながら、同時に警戒もしながら空中庭園まで来るとまるで俺たちを待っていたかのように、空から彼女が舞い降りた。


「……本当に来たわ」

「だな」


 ここまで来ると俺たちはもう武器を構える必要もない。

 何となく察している最後の邂逅……天使は何を刹那に伝えるのか、それを俺は見守ることにしよう。

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