与えられたもの
「こんにちは……?」
「えぇこんにちは……どうして疑問形なの?」
「人の挨拶はこういうもの……らしいから?」
何だろう……このフワフワした会話は。
変わらない姿で現れた天使の言葉に、刹那は少しばかり困惑しながらも天使の目を見て答えた。
さて、こうして二人が改めて出会う場が整えられた。
幸いにも魔物たちの出現率が今日は若干少ないのか、俺たちが居る場所にはあまり魔物は近づいてこない。
「そんなに話を出来る時間はない。こうして自分を取り戻した以上、私は戻らないといけないから」
「そうなの? よく分からないけれど……」
「分からなくても大丈夫。それは仕方のないことだから――まずはごめんなさい。私の魔法が不十分だったばかりに、偶然と偶然が重なった結果だけどあなたには不安な気持ちを抱かせてしまった」
「そんなことはないわ。あなたは私を助けてくれた……確かにあの出来事に不安を抱かなかったと言えば噓になるけど、それでもあなたは私の命の恩人よ」
刹那がそう伝えると、天使は小さく微笑んだ。
どんな心境の変化があったのかは分からないが、彼女は長かった前髪を切っているのでその表情がよく分かる。
それからも二人は和やかな雰囲気で会話を進め、ここがダンジョンであり高難易度の場所であること忘れさせるほどで、俺はつい気が抜けそうになるのをどうにか耐えていた。
そして、ある意味でずっと気掛かりだったことの答えも出された。
「中途半端な魔法だったからこそ、あなたに私の力が少し入り込んでしまった。何か体に変化はなかった?」
「あ、もしかしてこれのこと?」
刹那は自身の背に純白の翼を出現させた。
こう見ると天使が生やしている翼と形は細部までそっくりなので、刹那のこの天使化にはやはり明確な理由があったようだ。
天使の表情は刹那を見て暗くなっており、どうやらこの力が渡ってしまったことに対しても罪悪感を抱いているらしい。
「そんな顔をしないで。この力には幾度となく助けられたから」
だが、刹那はそんな天使に近付いて抱きしめた。
「……助けられた?」
「えぇ。スキルでも何でもないこの力……私だけでなく、両親もなんのことか分からなくて困惑したこともあったわ。でもね? この力はある意味私にとって全力以上の力を出せる状態でもあるの。出所は不明だったけど、ピンチになっても切り抜けられる力があるというのは私の支えになっていた――だからそんな顔をしないで? この力は私にとって大切なものだったから」
「……そう」
そこまで言われたら天使としても嬉しかったようで、刹那のことを抱きしめ返す。
今回の騒ぎはそこまで長引くことはなかったが、内容としてはとても濃いものだったのは言うまでもない。
天使とのやり取りは数日程度、だというのに随分と長く感じたのは刹那のことをいつも以上に考えていたからかもしれない。
「そんな風に言われたらこれ以上謝るわけにもいかない……ならその力、どうか大切に使ってほしい。人間の身には過ぎたる力、けどあなたの力にこれからもずっとなってくれるはずだから」
「分かったわ」
そして、天使は俺に視線を向けた。
「天使の力と無双の刀……引き合うものはあるのかもしれない。それこそ人の身には過ぎたる力、けれど天命はあなたを選んだみたい」
「おい……流石に何を言っているのか分からないぞ」
俺の刀が何かしらの意味を持っているのだと暗に天使は言いたいようだが、今の言葉が理解出来ても意味までは理解出来ない……頼むからもう少し細かく教えてくれって感じだが時間みたいだ。
「理由なんて大したものじゃない。人が本来持つはずの力ではなくとも、持ってしまった以上はそれが運命というだけ。あなたの心はとても綺麗……きっと、そのスキルはあなたに出会うべくして出会った――刀はあなただからこそ応えた」
そこまで言って天使は翼を揺らす。
刹那から離れた彼女はゆっくりと地上を離れて行き、空中庭園を見下ろす空に亀裂のようなものが現れ、まるでホールのような穴が開いた。
「もう会うことはない。でも……人間と触れ合うのも悪くないと思った。あなたたちみたいな人も居れば、めんどくさい人間もいる……勉強になった」
「はは、そうか」
「ふふっ」
出来れば俺たち以外にも素晴らしい人が大勢居ることだけは知っておいてもらいたいものだ。
「それじゃあこれで。もし奇跡が起きたら……会えるかも?」
そんな言葉を残し、天使は亀裂の中に消えて行った。
最後にしては気になる言葉を残したものの、俺も刹那もまた会えるのなら会ってみたいという気持ちは噓ではなかった。
これで本当に刹那に関することは終わりをつげ、天使の力に関することも答えが出たわけだ。
「一区切り……だな。色々と」
「そうね。この力はあの子からだったのね……突然変異とかじゃない、ちゃんと想いがあったんだわ」
「そうだな。刹那を助けたいあの子の気持ちが、その力を刹那に与えた」
出所不明というのは気持ち悪さがあるが、こうして誰かの想いが一緒に与えられたと知れるのは全然違う。
覚馬さんや鏡花さんを安心させてあげられる話が出来るのも嬉しいが何より、刹那が嬉しそうに……安心している様子を見れたのが俺にとって何より良かった。
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