喋れる天使
突然に現れた天使、彼女は相変わらず美しかった。
しかし人ではない証である純白の翼と聖なる雰囲気は隠すことが出来ておらず、確実に彼女を見られると騒ぎになるのが目に見えた。
目が合った時点で彼女は気まずそうに顔を伏せたが、その仕草だけでも以前に比べて格段に人間らしくなっている。
「よし! ここまで来たぞ~!!」
「うん? 何も居なくね?」
そこでちょうど探索者のパーティがやってきた。
全員で十数人規模の彼らは辺りを見回してキョロキョロしている――何故か天使が逃げない確信を持っていた俺は彼女の腕を掴み、そのまま陰に隠れるように移動するのだった。
「大人しく付いてくるのか」
「うん……なんとなく……分かるから」
「物分かりが良いんだな?」
「あなたのおかげかも……以前に比べて、思考もそれなりに出来るようになった」
「……ほう」
本当に流暢に喋るようになっている。
こうなってくると本当に人と変わらないという言葉が出てしまうが、それは今までの比ではなく一瞬とはいえ天使であることを忘れてしまいそうだ。
探索者の彼らはここでボスが再度沸くまで世間話でもしながら待つことを選択したらしく、ピクニックかよとツッコミを入れたくなる。
「もう少し奥の方に行けるか?」
「分かった」
天使を連れて更に奥の方まで俺たちは進んだ。
暗がりに美女を連れ込むというのはたとえやましいことがないとしても刹那に対して申し訳なさがあるが……そもそも、ダンジョンの奥だと彼女と連絡を取ることも出来ないし、そもそもこの天使に関しては気にしても仕方ない。
「さてと、こうして向き合うのはあれ以来か」
「うん。そうだね……あの子は……大丈夫?」
「あぁ。繋がりは断ち切れたみたいだからな」
「……良かった。正直、想定外でもあったから」
どうやら、ここまで話が出来るなら刹那のことも聞けそうだ。
「あの子……俺の大切な子で名前は刹那って言うんだ。一体どういう繋がりだったんだあれは」
そう聞くと、天使は一度頷いて口を開いた。
「あれは魂の修復だった……あの子はあの時、あと三秒後には確実に死んでいた……それだけのダメージを負っていたの」
「っ……そうか」
「うん。仮に死んでいたらもうダメだった……でも、かろうじて生きていたからこそあの子を助けることが出来た。どうして助けようと思ったのか分からない……でも、居ても立ってもいられなかった」
「……優しいんだな」
「優しい……分からない。私は、自分の感情が分からないから」
それは嘘ではなさそうだった。
刹那の命が後少しで失われていたというのも大きな衝撃だが、ここまで話が出来るのに天使は自分の感情が分からない……その感覚は俺には分からないが、それもまた一つの衝撃だった。
「あの子を助けるために必死だった……自分の意志を犠牲にして、彼女を生かすために私は力を使った……結果、彼女は助かったけど……中途半端に修復してしまったせいで、彼女と私は繋がった状態になった」
「それが……お前が傷を受けると刹那も傷付くってやつか」
「そう。ただ、これは近くに居た場合のみ作用するから……」
「やっぱりな」
どうやらそこに関しては俺たちの考察は合っていたか。
そこまで話して天使はどこか不思議そうな顔をして俺に視線を向け、次に俺の手を見ながら言葉を続けた。
「本来であれば……あの子の傷を治した魔法はずっと続いている……だからこそあり得ないの。あの時握っていたあなたの刀は……何?」
あり得ない……つまり本来であれば決して斬ることの出来ない繋がりを断ち切った刀についての疑問だろうか。
俺はそっと手の平に刀を呼び出すと、天使はマジマジと見つめて動きを止めた。
そのまま手を伸ばして刀身に触れた時、彼女はボソッと呟く。
「なるほど……そういうことなんだ」
「どういうことだよ」
「何でもない……その力、大事にするんだよ?」
「え? あ、あぁ……」
それは言われるまでもないことだ。
そもそもスキルとして俺に宿ったんだし、捨てることは絶対に出来ない力なのでこの先も相棒とは付き合っていくしかない。
それにしてもこの刀に対して何かを感じたようだが……そこで天使は翼を広げて宙に浮いた。
「また今度、あの子を連れて来てほしい……お話がしたい」
「それは願ってもないことだ。刹那も少しだけ思い出したみたいだしな」
「うん。あの時は変なのに邪魔されてしまったから」
おい寺島、お前変なのって言われてるぞ。
その後、天使はその場から飛び立って姿を消したのだが……これはしっかりと刹那に伝え必要がありそうだ。
しかし……俺の刀を見て彼女は何を思ったのだろう。
次に会った時聞いてみるかと、俺はそう考えてダンジョンから出るのだった。
「……おっと」
ただその途中、ダンジョンの入口で寺島を見てしまいつい隠れてしまった。
あまりにも関わりたくないという気持ちが強すぎて、少しでも視線が合うと絡んできそうな気がして嫌なのだ。
「行ったか……」
寺島が居なくなったのを確認し、俺はもようやく帰路に着いた。
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